「ムロツヨシが最高に狂っている」「ずっと展開が読めない」映画ファンが体感した『神は見返りを求める』の身につまされるようなリアルさとは?
人間の暗部を暴きだすような数々の傑作をこれまで生みだしてきた吉田恵輔監督の最新作『神は見返りを求める』が6月24日(金)より公開される。"YouTuber"という職業を通して、いまという時代を象徴的かつポップに描く一方、"欲"や"嫉妬"、"本音と建前"といった人が誰しも持つ醜さや葛藤をも鮮烈に描きだす。 【写真を見る】身を尽くすおひとよしから、覆面を被って反撃キャラに一転…観客を驚愕させたムロツヨシの”豹変” 「今年いちの衝撃映画!」(20代・女性) 「ずっと展開が読めないおもしろい映画」(20代・男性) 公開に先立って実施されたMOVIE WALKER PRESSの試写会でも、急激にテイストが変わる作風に「翻弄された」という声が多く寄せられている。そんな本作の見どころを観客の声と共に紐解いていく! ■吉田恵輔節満載の、“心温まりづらい”エグられるラブストーリー 『ヒメアノ~ル』(16)や『空白』(21)など数々の話題作を世に送りだした吉田監督。これまで『さんかく』(10)、『犬猿』(18)といった作品で、男女のこじれた関係性を巧みに映してきた。それらはどれもパッと見はポップだが、蓋を開けると猛毒…。吉田監督が自ら書き下ろした本作について、 「明るくポップに吉田恵輔監督らしいエグさがあってとても好きでした」(20代・男性) 「心をえぐられる(不)快作」(20代・男性) 「日常の人の嫌で正直なところが詰め込まれている作品」(30代・女性) との感想が並んでおり、吉田監督ワールド全開の1作。底辺YouTuberの女の子と彼女を手伝うおじさんのポップな愛憎ストーリーが綴られていく。 合コンで出会ったイベント会社勤務の田母神(ムロツヨシ)とYouTuberのゆりちゃん(岸井ゆきの)。再生回数に悩むゆりちゃんを不憫に思った田母神は、まるで神のように見返りを一切求めず、彼女のYouTubeチャンネルの制作を手伝うことに。なかなか結果は出ないものの、前向きに取り組んでいく良きパートナーになっていく。 そんな時、ゆりちゃんは田母神の同僚である梅川(若葉竜也)の紹介で人気YouTuberのチョレイ・カビゴン(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画によって突然バズる。さらに、デザイナ一の村上(栁俊太郎)と動画制作を始め、人気YouTuberの仲間入りを果たすが、その成功を素直に喜べない田母神の態度に辟易したゆりちゃんは、センスのない田母神のことをしだいに敬遠するようになる。 売れたことをきっかけに人気者たちとつるむようになり、あろうことか自分のチャンネルを支えてくれていた田母神をバカにするようになったゆりちゃん。そんな彼女に対し、田母神は善意に対する見返りを執拗に求め、怒り出してしまう…。 「感情のジェットコースターがすごかった」(20代・女性) 「人間の生活が変わっていくさまがとてもこわくておもしろかった」(10代・女性) 「喜怒哀楽のすべてが詰まっている!」(20代・女性) 上記のコメントにあるように、本作では成功をきっかけに崩壊する人間関係が起伏豊かに描かれていく。それだけに感情を刺激されたという言葉も。 「感情がごちゃごちゃ。やっと仲直りができたと思ったら、衝撃の最後だった」(20代・女性) 「笑っていたのに、最後は泣いていた」(20代・女性) 「みんなキモイし、こんな人いっぱいいるし、リアリティあって、なんか…」(40代・女性) 決して心温まるような物語ではないが、心に突き刺さるものを感じた人が多かったようだ。 ■人間の闇を体現したムロツヨシ&岸井ゆきのの演技合戦に目を奪われる! お情けから始まり、なんとなく仲良くなり、そして憎しみ合っていく。そんな浅い関係性を体現しているのが、ムロと岸井の“怪演”ともいえる一級品の演技だ。 田母神は、合コンで酔い潰れていたゆりちゃんを介抱し、さらに動画の相談を受けると、撮影から編集まで無償で手伝ってしまう優しすぎるおじさん。演じたムロは温和な表情とゆったりとしたしゃべり方、ゆりちゃんから「本当にいい人ですね。神です」と言われて浮かべる満更でもない微笑みなど、どこか心配になるような余白を残しながら、人物像を表現している。 「見返り欲しさにやっているワケじゃないから…」と紳士に振る舞う田母神だったが、「性格がいきなり変わったシーン。ずっと優しい人だったのにどんどんと心が汚れていくような感じを感じた」(20代・女性)とある通り、ゆりちゃんから距離を置かれたことでキャラが激変してブチギレ。与えた善意に対する見返りにこだわり、いっきに狂気的な一面をのぞかせていく。 「ムロさんの一瞬でキレるシーンがものすごく怖い」(30代・男性) 「豹変していくさまがとても印象的でした」(10代・女性) 「ムロツヨシが最高に狂っている」(20代・女性) 死んだような眼差しを見せたかと思えば、攻撃的な口調や態度、おかしなことを真顔で言い放つ際の底知れぬ闇を感じさせる表情など、緩急のある戦慄の演技には恐怖を覚える人が続出。だが「あまりの純粋さと哀れさに狂おしいまでの愛しさすら感じてしまった」(20代・男性)と、その転落ぶりに思わず愛しさを覚えた人もいたようだ。 一方、ゆりちゃんを演じている岸井は、底辺Youtuberとしてカメラの前で一生懸命振る舞っていた素朴さから一変、売れっ子になり調子に乗っていく変化を痛々しくもリアルに演じ分けており、「どんどん見た目も中身も変わっていってすごかった」(20代・男性)などの声が多く寄せられた。 特に彼女の真価が発揮されているのが、田母神と対峙するシーン。以前は笑顔を向けていた田母神に対する冷たい眼差しや言葉の端々に出るトゲなど、心変わりをわかりやすくもリアルに表現しており、ゆりちゃんがどんな人間なのかを端的に表現している。 「ムロさんと言い合っている時の表現力がいい」(40代・女性) 「母神さんに態度を変え始めたシーン。ずっと陰で支えていてくれたのに、田母神さんよりも力がある人が現れた途端に切り捨てるところが現実的だった」(20代・女性) 「『こんなことしないでもっと自分を磨いたほうがいいですよ』と言い合うシーン。まったくもって正論ながら果たして自分自身が磨いていたのかという、彼女の空虚な本質を映しだしている」(20代・男性) これらの感想が示しているように、2人の徐々に熱を帯びていく演技合戦は、本作の見逃せない大きなポイントだ。 ■不快だけど嫌いになりきれない…世の中にあふれているような登場人物たち また「結構全員、不愉快だった(=良かった)」(女性)とあるように、インパクト抜群な主人公2人に負けず劣らずのしょうもない人間がオンパレードの本作。 特に田母神の後輩の梅川は、田母神とゆりちゃんの間を行ったり来たりして、互いの悪口や嘘を吹き込むタチの悪い人間で、多くの観客が「最も不快」と名前を挙げていたほど。演じる若葉竜也は、絶妙に軽いセリフ回しや顔をしかめつつもニヤついた表情で、軽薄かつ自覚のない人間をリアルに体現。「こういう人はたくさんいる。自分ももしかしたら…」(40代・女性)と身につまされる人もいたようだ。 そのほかにも、栁俊太郎演じるセンスで人を判断する海外帰りのデザイナー、村上や、吉村界人と淡梨扮する人のケンカを動画のネタにする人気Youtuberのチョレイ・カビゴン、陰でゆりちゃんの動画をバカにしている会社の同僚、誰も彼も人を見下して笑うような人ばかり。 「登場人物は好きではないけど、自分も同じようなことをしている面がある」(30代・女性) 「なんだかんだ皆不愉快ではあるんだけど、同時にどうしようもない現実感を感じてしまった以上嫌いになれません」(20代・男性) あまりにリアルな人物描写には、身に覚えがありつつもそれゆえにどこか嫌いになれないという感想も多く寄せられていた。 ■自分も“見返り”を求めていた…日常の"あるある"を喚起するエッセンスがてんこ盛り そんな人物描写だけでなく、「人の本性を表して恐ろしい映画」(30代・男性)という言葉のように、人間の心の底に渦巻く感情を浮かび上がらせている。YouTubeという現代的な題材になっているが、その根底には男女のこじれ、善意と裏切り、嫉妬や憧れ、本音と建前といった、どの時代にも存在する感情やエッセンスが随所にちりばめられている。 特に本作のテーマである“見返りを求めてしまう”、“恩を仇で返してしまう”という点に関しては、身に覚えがある人も多かったようで、 「友人の誕生日にメッセージを送って、自分の誕生日にお祝いされるのを待っていた」(20代・女性) 「先日、初任給プレゼントとして祖母にバラとパジャマを渡したが、その場で開封せず流された。『ありがとう』のひと言をくれたら、仕事を頑張った自分を報いることができたのになあと思った」(20代・女性) 「仕事でなにかトラブルがあった時に助けてもらえるように、普段から愛想よく振る舞うようにしている」(30代・女性) 「家族の優しさを当たり前に思って横柄な態度を取ってしまったことがある」(20代・女性) といった具体的なエピソードから、 「誰かによかれと思ってしたことに対して、やっぱり感謝やなにかをどこかで求めていることはあると思います」(30代・女性) 「日常生活で我慢していい顔をしているけど、無意識に見返りを求めてしまっていると思います」(30代・女性) などの感覚的な意見まで、思うところがあるという言葉がアンケートにはズラリ。本作が、誰もが共感できるような物語になっていることを証明している。 「吉田さんらしい、嫌なところと優しさがあり、いろいろと語りたくなる」(30代・男性)と監督ファンもイチオシの『神は見返りを求める』。ぜひ劇場でチェックして、身をえぐられるような思いを味わってみてはいかがだろうか? 文・構成/サンクレイオ翼 ※吉田恵輔の「吉」は“つちよし”が正式表記