好きの階段を上る戦略、「ファンは仲間である」と ヤッホーブルーイング が確信した、組織との相関関係
企業文化を見てファンは「ファン」になってくれる
DD:熱狂的なファンもいるというユニークな商品はどのように生まれているのですか。 佐藤:基本的にはブランド戦略チームが中心となって開発しますが、社内で希望する人は本業と兼務になりますがプロジェクトメンバーに入ることができます。そして徹底的にターゲット分析を行い、商品名の決定からデザインまで約1年をかけて開発していきます。 ターゲット像は「どこの駅に住んでいて、職業は何で、どんなファッションが好きで、趣味は何か」など、詳細に設定。そして、そのターゲット像に近い方に徹底的にインタビューをして、味の方向性なども決めていきます。日頃からファンの方と接点を持っていることもあり、よりリアルなターゲット像をイメージして商品開発を行っています。 DD:ファンとの距離が極めて近いのは、「企業DNA」による組織カルチャーも影響していると感じられます。 佐藤:2004年の危機以降、代表の井手は売り上げよりも組織づくりから着手しました。個人の能力に頼らずに一体感のあるチームになること。 たとえば、当社では全社員ニックネームで呼ぶことが徹底されています。私は「ジュンジュン」で、井手は「てんちょ」です。イベントは専門チームでなくても希望をすればどの部署からも参加できますし、醸造所ツアーも誰でも案内係になることができます。 全員がお客さまとの接点を持つことができます。会社の中心にファンの存在があるので、どの業務でも「ファンはどう考えるか」「ファンにとってどうなのか」という視点が必ずあるのです。 DD:佐藤氏の著書に、「ファン主催のイベントに招待された」というエピソードがありました。サプライズの替え歌で感動し、号泣されたとありましたが、最近のファンとの交流エピソードはありますか? 佐藤:イベントチームから分析チームに異動して調査系の仕事が多くなってしまったのと、コロナが5類に移行したこともあって、個人的にファンの方々に会いに行くようにしています。 SNSを見ていても、この5年間でちょっとお客さまのテンションやトーンが下がっているように感じたこともあり、去年あたりから会いに行くようになりました。そうしたら「会いに来てくれてありがとう」とすごく喜んでくれて、大きなイベントもコロナ以降行っていなかったので「寂しい」といってくださる方も。 地域ごとにファン同士で交流会も開かれていたようで、変わらぬ「ぞっこん度」の高さが嬉しかったです。ことしの5月には、5年ぶりに大型野外ファンイベント「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)2024 in 新緑の北軽井沢」を実施して、改めてその熱量に感動しました。 DD:ビールという商材は飲み会や野外フェスに合う、コミュニティとして盛り上がりやすいと思いますが、ほかの商材だった場合でもヤッホー流のファンマーケティングは機能すると思いますか? 佐藤:他社のマーケターの方と話す機会も多いですが、ファンコミュニティというのは課題感や関心ごとが明確にあればあるほど集まりやすく、盛り上がります。 たとえば商品が「薬」だとすると野外フェスにはならないかもしれませんが、ユーザー同士の悩みや分かち合いたい心理で、むしろシェアできる場は求められるはず。「何の軸で集まるのか」ということが明確であれば必ずファンはいるし、ファンの「好き」を考えて行けばヒントはたくさんあると思います。 東京営業所には「よなよなエール」のパッケージにも描かれている月が壁面に。「特別な晩だけでなく、毎晩エールビールを楽しんでほしい」という想いが込められている。 インタビュー・文/島田ゆかり 企画・構成/坂本凪沙(DIGIDAY JAPAN) 撮影/三浦晃一
編集部