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バーニーズ ニューヨークの元ウィンドウドレッサーが語る、ウィンドウショッピングをすることの喜び

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ハーパーズ バザー・オンライン

私はロンドン近くの雨の多い工業地帯で育った。そこではグラマラスと興奮はほとんどなく、スウィンギング・シックスティーズはまだスウィングしていなかった。テレビも、ラグジュアリーも、何の盛り上がりもない。年に一度、地元のデパートをきらめくライトと花飾りでウィンドウをディスプレイするクリスマスを除いて。 【写真】海外からの観光客受け入れを再開する10の国々 働き者のウィンドウドレッサーは、使い古しの張り子のトナカイを引っ張り出してきて、わずかな人工雪を床にまく。銀色の星と特大の雪の結晶が、きらびやかな赤いそりの上の天井からぶら下がり、目覚まし時計、ティーポット、グレイビーボートなどの贈り物が高く積まれていた。 私たちにはそれらを買う余裕はなかったが、それはどうでもいいことだった。自分の目でショッピングをするのが幸せだった。そのウィンドウは無料でお祭り気分を味わえ、それで十分だった。私たちはウィンドウショッピングを楽しんでいた。 第二次世界大戦後の荒涼とした風景のなかで、それは私たちが必要とした衝撃的なファンタジーであり、ポジティブなヴィジュアルだった。そして今はどうだろうか? ロックダウンで長い時間を家で過ごした後、私たちはみな自由に動けることへの新たな感謝を持っている。特に屋外で行われる体験、そして社会科学者が「集団的沸騰」と呼ぶ、その不思議な高揚感に飢えているのだ。

店は何世代にもわたってこの非公式のグループ心理療法を無料で提供してきた。それはどこに行ったのだろう? 私を初めて釘付けにしてから半世紀、ウィンドウショッピングは大衆と小売業者の支持を失ってしまった。ブランドの大多数は、密閉空間における派手な(そして高価な)装飾を排除し、遮るものがない店内インテリアと興味を抱かせる商品に置き換えた。 クリエイティブなウィンドウデザインのスーパースターたち、たとえばリンダ・ファーゴとディヴィッド・ホーイによるニューヨークの高級デパート、バーグドルフ・グッドマンのホリデーデザインや、ファイ・マクリードによるルイ・ヴィトンのウィンドウ、レイラ・マンシャリによるエルメスの伝説的なディスプレイ装飾。そしてもちろん、私自身によるバーニーズ ニューヨークのアンディ・ウォーホルやイギリス王室への風刺的なオマージュなどは、今も魔法の杖を放ち続けている。一部の店では休暇にもかかわらず魔法をかけ続けているが、それに気付いた人はいただろうか? 関心を失った歩行者はウィンドウがどれほどすばらしいものであっても、店の窓に夢中になるよりも、携帯電話を見たり自撮りしたりする。インスタグラムをサッと見るだけで、1000のウィンドウ・ディスプレイに匹敵する視覚刺激が得られるからだ。 今では商品がすぐに手に入るようになり、寒い歩道に立つような客はいない。そのため、ヴァーチャルにオンラインで注文できる品物を求める。純粋に合理的な観点から見れば、精巧なウィンドウ・ディスプレイはもはや何の役にも立たない。 それでも、合理的であることの必要性がそれほどなくなる新しい時代に入ったのかもしれない。ウィンドウショッピングの真の受益者は、費用を負担する店舗ではなく、歩道を歩く人々であったことを思い出してほしい。ウィンドウショッピングは、チケット代のかからない、壮大で気分が良いスポーツイベントだった。そしてそれは非常に民主的でもあった。バーニーズ ニューヨークにいた頃、私は地元の人や観光客が窓の外に集まってくるのを眺めていた。 そのうち大半の客は、店に入ってアライアのドレスやフェンディのトートバッグを購入する気も手段もなかった。彼らは歩道の雰囲気や、あたたかくて生命を確認するような感覚(これこそ集団的沸騰!)を楽しむために来ていた。私たちはともにそれを経験していた。

ここに私のウィンドウドレッサーとしての願いがある。このパンデミックが終わったら、これまで以上に活気に満ちた寒い歩道に戻ってほしい。ウィンドウで見たものを購入できるかどうかは忘れて。ただ経験を共有することで得られる良い波動を楽しんでほしい。 『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーはブルーな気持ちになったとき、どこに行っただろうか? ティファニーでウィンドウショッピングだ。そこは彼女が大好きだったファンタジーな場所だった。なぜなら「そこでは何も悪い事は起こらない」からだ。 もちろん、それは幻想だがそれが何だというのだ。幻想こそが人生を耐えうるものにするのだ。

Translation: Chise Taguchi From Town & Country US

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