ネアンデルタール人「絶滅」の理由「2集団が互いに無視していた」...ゲノム解析から驚きの新説
絶縁状態がリスクを生む
分析の結果、トーリンは非常に寒い地域で暮らしていたことが明らかに。ゲノム解析の結果どおり、彼が後期ネアンデルタール人であることが証明された。 「このゲノムはヨーロッパ最初期のネアンデルタール人のものだ」と論文の筆頭執筆者の1人であるコペンハーゲン大学のマーティン・シコラ准教授(集団遺伝学)は報道発表で述べている。 既知のネアンデルタール人のゲノム配列との比較から、トーリンに最も配列が似ているのはイベリア半島南端の英領ジブラルタルで発掘されたネアンデルタール人であることが判明した。スリマックによれば、トーリンの集団がジブラルタルからフランスに移住した可能性を示唆しているという。 「つまり、ヨーロッパ最南端からフランスのローヌ渓谷までの地中海地域にこれまで知られていなかったネアンデルタール人が存在していたということだ」 研究結果は、複数の孤立した後期ネアンデルタール人の集団が絶滅直前にヨーロッパに存在したことをうかがわせるだけではない。ネアンデルタール人の社会組織にも光を当て、絶滅までの1000年間は地理的には近い距離であっても異なる集団間の交流は限られていた可能性を示唆している。 一般に、小規模で隔離された集団の生活は、その生き残りには不利になると考えられている。 「他の集団との接触は集団にとっては良いこと」で、「長期にわたって孤立すると遺伝的多様性が乏しくなり、気候の変化や病原体に対する適応力が低下し、社会的にも知識を共有することがなくなり、集団としての進化も停滞する」とビマラは指摘している。 これらの要因がネアンデルタール人の絶滅に重要な役割を果たしたのかもしれない。 「私たちの研究は、遺伝的孤立と規模の小ささがネアンデルタール人の集団の一般的特徴だった可能性を示すさらなる証拠だと思う」とシコラは本誌に語った。 「初期の現生人類の集団がはるかに相互のつながりがあったのとは大きな違いだ。そうした社会組織の違いがネアンデルタール人の衰退にどの程度重大な役割を果たしたのかを調べるには、さらに多くのネアンデルタール人の遺伝情報が必要だ」 アリストス・ジョージャウ(本誌科学担当)