【詳細データテスト】アウディS3スポーツバック ニュートラルなハンドリング 過激すぎない速さ 乗り心地と質感は改善の余地あり
はじめに
コンセプト面からみれば、アウディS3としては第4世代となる新型が、1999年に登場し、プレミアムなスポーツコンパクトというジャンルを打ち立てた初代に見劣りするところなどまったくない。 【写真】アウディS3スポーツバックとライバル (16枚) 上質なインテリアと4WDシステム、そしてもちろんハイパワーといった、まさしくアウディらしい要素を兼ね備えるS3。しかし、なによりすばらしいのは、それらがファミリーカーサイズのハッチバックにまとめられていることだ。ただし、最新モデルには3ドアがなく、5ドアのみの設定なのが少し残念だが。 ともあれS3は、現代のアウディをみごとに体現しているし、しかも扱いやすいスモールなパッケージにそれを凝縮している。さらにいうなら、実力の高いスポーツコンパクトのS1が消滅したことで、アウディのSモデルでもっとも身近なラインナップという立ち位置に返り咲いたことにもなる。 となると、歴代モデルがあまりエンスージアスト受けしなかったのが不思議にも思えてくる。いまや魅力的なネオクラシックカーとみなされるようになった210psの初代でさえ、批判の的になったものだ。その理由は、アウディが不用意にもクワトロの名をこの車に与えてしまったことにある。 そのシステムの実態は、ハルデックスカップリングを用いたオンデマンド4WDで、アウディの伝統的なトルセン式フルタイムの、いわゆるクワトロではなかった。以降、その重さや無感覚なステアリングは非難され続けてきた。 ましてや、メカニズム的には大差なく、最近では性能で上回る兄弟分、すなわちフォルクスワーゲン・ゴルフRに比べてしまうと、バリューは物足りなく感じてしまう。 はたしてそういったもろもろが、8Y世代のS3でも繰り返されているのかを確かめたいところだ。しかしそれ以前に、大きな見方をすれば、世界におけるS3の立ち位置が変化していることは理解しておかなければならない。 1999年のS3は、ランチア・デルタ・インテグラーレ・エヴォルツィオーネに肩を並べるペースと、イタリア車には望めない豪華さやソリッドさをあわせ持つクルマだった。しかしながら新型は、弾丸のような速さをみせつける必要性が薄くなった。 なぜなら、かつてS3はスポーツプレミアムコンパクトの頂点にいたが、いまや別の存在に取って代わられているからだ。それはアウディ自身が送り出したRS4はもちろん、その競合モデルであるメルセデスAMG A 45も含む、400ps級のスーパーハッチバックにほかならない。 そんな2020年にあって、S3が成功を収めるには、完成度や洗練度、守備範囲の広さで他を圧倒する、全天候型ホットハッチであることが求められる。それを見極めていこう。