「医療の進歩」がもたらした“とんでもない代償” なぜコロナパンデミックが衝撃的だったのか
世の中はめまぐるしく変化している。未来を正確に予測できる人は誰もいない。しかし、どんなときも“人間の本性”は変わらない――。 『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』では、世界各国で600万部と大反響を呼んだ『サイコロジー・オブ・マネー』の著者、モーガン・ハウセル氏が、お金からさらに視点を広げ、どんな時代がきても賢くサバイブするための「人生教訓」を伝授してくれます。 本稿では、同書から一部を抜粋してお届けします。
■「医療の進歩」の“とんでもない代償” 「歴史を知らないと、すべてが前例のないものに感じられる」と、かつて作家のケリー・ヘイズは書いた。とても重要な考え方だ。 歴史家のダン・カーリンは、著書『危機の世界史』(渡会圭子訳、文藝春秋)の中で次のように書いている。 〈我々とそれ以前の人類との大きな違いは、病気による影響がきわめて少なくなったことだ……もし我々のような現代人が、産業革命以前の先祖たちと同じ死亡率で1年間暮らしたら、大きなショックを受けてしまうだろう。〉
現代の生活は、全般的にかつてないほど安全になっている。前世紀に見られた多くの進歩は、感染症の減少によるところが大きかった。1900年には、毎年10万人あたり約800人のアメリカ人が感染症で死亡していたが、2014年には、10万人あたり46人と、94パーセントも減少した。 感染症の減少は、人類にとっておそらく史上最高の出来事といえるだろう。という文のあとに、「しかし」と続けるのは先走りすぎだろう。これは、まったくもって素晴らしいことなのだから。
しかし、これが異常事態を引き起こす。 感染症による死亡者数が減少したことによって、世界は感染症に対処する備えを失ってしまった――医学的には違うかもしれないが、心理的には間違いなくそうである。 100年前なら、悲劇ではあっても生活するうえで想定内であったものが、今では悲劇であり、かつ現代生活では想像も及ばないものになっている。 ■なぜパンデミックが衝撃的だったか 実際、新型コロナウイルスのパンデミックがあれほど衝撃的かつ圧倒的だったのは、そのためだ。