J2で快進撃を続ける水戸ホーリーホックの強さの秘密とは?
ピッチ外で生じた変化は、クラブハウスだけにとどまらない。ホーリーホックがJ1へ昇格する可能性は、ホームのケーズデンキスタジアム水戸の収容人員が約1万人とJ1基準の1万5000人を満たさないうえ、改修工事のめども立たないことから長く閉ざされてきた。 一転して昨シーズンに、クラブの悲願でもあったJ1クラブライセンスが交付されている。かつてホームとして使用した約2万2000人収容の笠松運動公園陸上競技場(那珂市)を、成績面でJ1昇格条件を満たした場合に短期改修する、という条件つきの申請は今年も行われる予定だ。 昨シーズンは10位に終わったことで成績面が及ばなかったが、J1の舞台で戦う夢は元号が令和に変わった今シーズンへ引き継がれている。自動昇格できる2位以内はもちろんのこと、6位以内に食い込めばJ1参入プレーオフに臨める。一気にモチベーションが上がった、と細川は笑顔を浮かべる。 「J1に昇格できる可能性があるわけですから。ライセンスのおかげでクラブ自体も、そして選手たち自身もひとつ上の段階に来ていると思う。ここで花を咲かせたいと思う選手たちや、ここでワンクッションを入れてさらに上へ行こうと思う選手たちが毎日、一生懸命練習しているので」 ゼルビア戦の後半38分に待望の初ゴールを決めて勝利を決定づけた、大阪体育大卒のMF浅野雄也(22)をはじめとする有望なルーキーたちも集ってくる。元日本代表の浅野拓磨(ハノーファー96)を兄にもつ左利きのアタッカーにも、すでにホーリーホックのイズムは脈打っている。 「しんどい時間帯こそみんなで走って、みんなで声を出し合って全員攻撃と全員守備を目指す。一人ひとりの運動量が多ければ、試合の流れもどんどん僕たちの方に来ると思うので」 J1で華々しい結果を残している選手はいない。というよりも、可能性を秘めながらチャンスを得られなかったと言っていい。細川も5年間所属したベガルタ仙台では、J1で3試合にしか出場していない。2011シーズンいっぱいで退団した後は、右ひざに大けがを負ったたこともあり、無所属の期間も経験した。だからこそ、ともに歩んできたホーリーホックの未来にかける思いは熱い。 「監督からは『一体感』という言葉もすごく言われている。攻守に連動した、アグレッシブで見ていて楽しくなるようなサッカーを体現しながら、目の前の試合を一戦必勝で戦っていきたい」 長谷部監督の指導を介して自分たちの身の丈を熟知しながら、ピッチ上で常に最大値を発揮させるための準備を積み重ねる。そこへフロントの努力によって、ピッチ外の新たな環境が加わったことで幕を開けた愚直な快進撃は、見ている側の魂をも高ぶらせる熱き鼓動を奏でている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)