「今日は出られただけで良かった」被災地・石川県の卓球は今<全農杯2024年全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部 石川県予選会>
<全農杯2024年全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)石川県予選会 5月12日(金)石川県白山市若宮公園体育館> 能登は本来、金沢より卓球の盛んな地域であった。 今年の3月も、奥能登の玄関口である穴水町立穴水町中の女子卓球部が、全中選抜に県代表として出場した。 過疎が進行するなかで能登半島を襲った震災は、“卓球能登”の復興を厳しくさせるものでもある。 一方、金沢には多くの観光客が戻り、活況を呈している。そこから車で15分ほど行った内灘地区では、いまも液状化被害が甚大で、地面が波打ったまま人の立ち入りを拒絶する。 子どもたちは元気いっぱいで卓球の試合に臨んでいるが、話を聞くと、県外に避難して戻ってこないチームメイトのことを思っていたりする。 被災地といっても、一様ではない。 取材者の憶測で物語を押し付けないこと。現地にある葛藤や、言葉にしづらい心境に耳をすませること。そう言い聞かせながら、全農杯全日本ホカバ石川県予選会に臨む子どもたち、指導者、保護者を取材した。
バンビ台は用意できるか
能登半島地震発生以来多くの対応に追われた石川県卓球連盟の稲垣裕理事長だが、ホカバ県予選について頭をよぎったのは、バンビ台の手配だったという。 例年、ホカバ石川県予選会は七尾総合市民体育館で開催しており、七尾市の松平スポーツにあるバンビ台も含めて準備ができていたが、いまは避難所となっている。県内でバンビ台の数は多くない。避難所となっている金沢市内の体育館からの運び出しの許可が行政から出て、開催にこぎ着けた。 「今日は、能登から穴水の子どもたちも参加しています」開会の挨拶をする稲垣理事長の声に熱がこもっていた。
被災地・穴水地区から兄弟で
震災発生から約3ヶ月間、練習のできなかった穴水真名井スポーツ少年団の子どもたちは、いまも穴水中学校の体育館を週2回借りて練習する日々だ。かつての施設は避難所として使用されている。 “そのかわり、一球一球、課題を持って集中して練習してきた”と、ホープス男子に出場した田中琉聖(穴水真名井)は、安定した両ハンドを武器にホープス男子2位入賞、全日本ホカバへの切符を手にした。 そのベンチには、全中石川県選抜メンバーにも入った穴水中学三年の兄・大輝が入り、懸命に弟にアドバイスを送っていた。 「的確にアドバイスをくれて、やりやすかったです」と素直に兄への感謝を口にする弟の様子に父は驚きつつ「長男にベンチに入ってもらって良かった」と、言葉を詰まらせた。 「今日は出られただけで本当に良かったと思っていて、結果はその次でした。震災以来何ヶ月ぶりかの試合だったので、少しでも次男が伸び伸びしてくれたらと思って、長男に入ってもらいました」 震災直後10日間、田中一家は安否確認の電話さえ繋がらない避難場所で過ごした。知り合いは、同じ年代の子どもを震災で亡くしている。 ホカバ県予選を長男と次男で力を合わせて戦う姿に、こみあげる思いがあったのだろう。「出られてだけで良かった」という言葉の実感が胸に迫る。