NHK大河「光る君へ」読者の心に根づき始める「源氏物語」…中宮・彰子の秘めた本音は 第35回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第35回「中宮の涙」が15日に放送される。 【写真】「光る君へ」第35回「中宮の涙」のワンシーン。彰子の懐妊を祈願し、御嶽詣へ山道を歩く道長(柄本佑) 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。8日に放送された第34回「目覚め」では、まひろ(吉高)の物語が宮中で浸透し、中宮・彰子(見上愛)との距離が近づく一方で、道長(柄本佑)には興福寺の強訴や相次ぐ放火、伊周(三浦翔平)の怪しげな動きなど、道長の身の回りに不穏な影が忍び寄る様子が描かれた。 宮中では「源氏物語」が読み継がれている。前回、ドラマの中で「光る君」が初登場したときにも触れたが、文字の羅列である「原稿」が「物語」として動き出すのは、誰かの心に物語性を帯びてタッチした瞬間。一条天皇(塩野瑛久)は「そなたの物語は朕(ちん)に素直に語りかけてくる」とガッチリ心をつかまれているし、源俊賢(本田大輔)は、光る君が源氏であることに着目して、没落した実父に思いをはせる。第3帖「空蟬」の“夜這い相手取り違え事件”を妻と笑いながら読む公任(町田啓太)ら、まひろの知らないところで確実に「源氏物語」は、誰かの心の中で物語として息をしている。 その中で、彰子だけは、まひろの元を訪ね「そなたの物語だが…面白さが分からぬ。男たちの言っていることも分からぬし、光る君が何をしたいのかも分からぬ」と正直すぎる感想を伝え、まひろ先生を戸惑わせる。現代日本で古文の授業を受けたことのある人は同じような感想を持った経験があるのかもしれないが、本人に伝えるハートの強さよ…。ただ、彰子が授業中の中高生と違うのは、心の底から「分かりたい」と思っているということ。帝への思いの発露、目覚めのときが近づいていることがわかる。 彰子は、帝や道長に見せる顔、まひろに見せる顔、敦康親王(渡邉櫂)に見せる顔、それぞれの局面でまったく違う表情をしている。敦康親王といるときの朗らかな表情は一番自分らしくていいし、同時に源氏物語ファンとしては光る君と藤壺の関係性がダブって少しハラハラするのだけれど…。 土御門で開かれた曲水の宴のシーン。12日放送の「100カメ」で舞台裏がつまびらかにされており、非常に興味深かった。こういったコラムって基本的に演技や脚本などについて触れることが多いが、技術スタッフのプロフェッショナルぶりに感服したし、まさに「神は細部に宿る」と実感。努力の結晶を見せてもらっていて本当にありがたい限りだ。NHKプラスやオンデマンドで見られるので、未見のかたはぜひ。 宴は雨で中断され、雨宿りの途中の公卿のおしゃべりを御簾(みす)越しに眺めた彰子は「父上が心からお笑いになるのを見てびっくりした」とまひろに感想を告げる。まひろは「殿御はみな、かわいいものでございます」「帝のお顔をしっかりご覧になって、お話申し上げなされたらよろしいと存じます」と助言する。「分かりたい」と思うだけでなく、「分かりたい」「分かってほしい」と伝えること。彰子の物語も、まもなく始まろうとしている。 「物語」の観点からあらためて話せば、前週の当コラムでも触れたように、まひろが第5帖「若紫」を書き上げた描写は、ただただ胸がときめいた。まひろが道長からもらった褒美の扇子に描かれた幼少期の2人をイメージの源として、心の中を飛び出して物語に昇華されていく。 以前、吉高の取材会に参加したとき、筆者が「源氏物語が好きで、作品に照らし合わせながら『これはあのオマージュ?』と思いながらドラマの前半を見ていました」と伝えると、吉高から「大石先生の思うツボですね」とクスクス笑われたことを思いだした。吉高自身も、第1回の雀の子が逃げ出した描写が「若紫」にリンクしているのは特に印象的だったと話していたし「これまで大石先生が蒔(ま)いた種が、後半でどんどん咲いていく」と予告していた。ストーリーの行方とともに、「源氏物語」の過程を楽しむことができるなんて。思うツボ、ありがとうございます。 第35回は、彰子の懐妊祈願のため、道長が嫡男・頼通(渡邊圭祐)と共に御嶽詣(みたけもうで)へ向かうところからスタート。険しい行程と悪天候に悩まされ、目的地である金峯山寺への到達に手こずっていると、伊周が武者を引き連れ、不穏な動きを見せる。一方、まひろの物語に興味を持った一条天皇は、まひろに物語の真意を尋ねては、自身の境遇を重ね思いをはせる。さらに、まひろは彰子の本心を知り…という展開が描かれていく。 御嶽詣は想像以上のハードさで、「どうやって撮ったんだろう…」と「100カメ」的な発想になるダイナミックな回。そして、サブタイトルにも明言されているし、前週の予告にもあるので、ネタバレにはならないと思うが、中宮は涙を見せている。ここまで、自分を表現する方法がわからなかった彰子の心がほどける瞬間。その涙は何かを動かすのか。見逃し視聴もいいけれど、今回はぜひリアルタイムで見てほしい。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社