北陸の工芸の奥深さと現代アートに触れる芸術祭『GO FOR KOGEI』へ。
もと精米所だったことから〈セイマイジョ〉と名づけられたスペースでは石渡結の作品が展示されている。今年、金沢美術工芸大学を卒業したばかりの若手だ。彼女は自ら素材である糸を撚り、染めるための土を探すところから手がけている。見る者を圧倒するどっしりとした形は自身の身体をモチーフにしたもの。土と糸に全身で向き合い、生まれた作品だ。
●東山エリア
金沢市を代表する観光地「ひがし茶屋街」のある東山エリアでは、観光客でにぎわう通りの裏手にある隠れ家のようなギャラリーなどが舞台だ。そのうちの一つ〈KAI〉では輪島で漆による器づくりを手がける赤木明登と、普段は器の絵付けを行っている大谷桃子によるインスタレーションが展開されている。
建物の中には赤木が収集している輪島塗のお椀の木地や、碗を納める箱などが積み上げられている。積み上げた箱の背後に大谷が蓮の絵を描いた。見上げると積み上げた箱の上に置かれた花入れから蓮の花が咲いているように見える。
赤木が従事する輪島塗は分業によって生産されており、木地を挽く(器の形に木を削り出す)、表面を平滑にする、布を巻き、下地を塗るといった工程によって異なる職人が担当している。今年1月の地震により赤木、そして彼とともに他の工程を担当する職人も被災した。とくに「荒型屋」と呼ばれる、木をお椀の形に挽く職人は一人しかおらず、この地震で廃業を考えているという。荒型屋がいなくなったら輪島塗が途絶えてしまう。赤木は危機感をもってこのインスタレーションを制作している。
この〈KAI〉の改修設計を手がけた建築家、三浦史朗は〈KAI離〉と名づけたスペースで展示を行っている。〈KAI離〉は通常非公開、特別に招待したゲストに食事やお茶をふるまう場だ。建物は築60年ほどの2階建ての木造アパートだが、三浦の改修によって大きな変容を遂げている。
〈KAI離〉で三浦は大工や木工、紙、竹、アルミといった素材の職人たちと協働する「宴KAIプロジェクト」の作品を展示している。『GO FOR KOGEI』ではその集大成として、組み立て式の茶室や仕口・継手による照明などをインスタレーションした空間を公開した。また、《淋汗草事》という宴席も特別開催。これは室町時代に流行した、風呂に入って茶を飲み、酒宴を行う「淋汗茶湯」から着想したもの。食事や入浴もできる設えとなっており、もてなしの妙を想像できる。