北陸の工芸の奥深さと現代アートに触れる芸術祭『GO FOR KOGEI』へ。
北陸を舞台にした『GO FOR KOGEI』は、工芸を軸に場所と人、技とが出会う芸術祭。富山市と金沢市の2か所で開催されているイベントの見どころをご紹介します。 【フォトギャラリーを見る】 『GO FOR KOGEI』は、北陸を舞台に2020年から年に一度、開催されている芸術祭。毎回、開催場所を少しずつ変えて行われている。今年は昨年からの継続となる富山市の岩瀬に、金沢市の東山を加えた2つのエリアが会場になっている。どちらも歴史的建造物が軒を連ねる、建物自体に匠の技を感じさせる街だ。
●富山市岩瀬エリア
富山市の岩瀬は富山港に注ぐ神通川の河口に近いエリア。かつては北前船による交易で栄えた。造り酒屋の〈桝田酒造店〉が中心となって、歴史的な街並みの活用に力を入れている。
その〈桝田酒造店〉の蔵を改修した、通常非公開のバー〈Aka Bar〉で観客を迎えるのは五月女晴佳の艶やかな赤いオブジェだ。漆を素材にした官能的なオブジェは唇をテーマにしている。「口は食欲やコミュニケーションなど、人の欲望に関連する器官です」と五月女はいう。もともと彼女は化粧が好きで、少しずつ塗り重ねて磨く漆芸の制作過程がメイクとも親和性があると感じていた。
人間が生存していく上で欲望は欠かせないものだが、行き過ぎると狂気的なものになってしまう、とも五月女はいう。彼女にとって血液の色であり、「生」を表す色でもある赤に私たちも目を惹きつけられる。
〈Aka Bar〉から歩いて数分の〈桝田酒造店 満寿泉〉の中には舘鼻則孝の作品がある。江戸の文化を現代の文脈で読み直した作品で知られる彼は2階の床に、神棚から雷が響き渡るようなグラフィックを展開した。神棚に祀られている、酒造りに欠かせない水を司る神は龍や雷とも関係している。神のエネルギーが満ちているようにも感じられる空間だ。
現在、アメリカを拠点に活動している岩村遠は人体をテーマにした、やきものによる作品を展示している。デフォルメや省略によって変形された人体は古代の土偶や呪具のようでもあり、アニメやマンガのキャラクターのようでもある。日本とアメリカでやきものを学び、世界各地で滞在制作を経験した彼は「自分なりに各地の文化を咀嚼し、取捨選択してきた」という。その結果残ったものが彼の中で醸成されて、独特のフォルムとなって出現している。