北朝鮮は本当にトランプ前大統領の返り咲きを望んでいるのか【コラム】
ハリス副大統領が当選すると核武力増強を続けるチャンスに トランプ前大統領が当選すると、経済発展に有利な環境づくりが有利に 尹錫悦政権の対策は
激しい競り合いを繰り広げている米大統領選挙が近づくにつれ、次期政権の北朝鮮政策にも関心が集まっている。ひとまず、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の対北朝鮮認識には明確な違いがある。ハリス候補は朝鮮(北朝鮮)の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を「独裁者」、「暴君」と称したうえで、「機嫌を取らない」としており、トランプ候補は「核兵器を持った国の指導者とうまく付き合うのは望ましいこと」だとし、首脳会談を進める意思を重ねて表明している。世界最強の国であり、朝鮮半島問題に大きな影響力を持つ米国の北朝鮮政策に注目が集まるのは自然なことだ。 しかし、外交は相手のいるゲームだ。その相手である朝鮮は米国に交渉期限として提示した2019年が過ぎてから、対米関係正常化の未練を捨てた。また「貧しくて孤立した核開発国」から「貧しさと孤立から脱皮する核保有国」へと変貌を遂げたと言っても過言ではない。米国の北朝鮮政策が圧倒的な影響力を持っていた過去とは様相が一変したという意味だ。韓国が次期米政府の北朝鮮政策に劣らず、朝鮮の選択にも注目しなければならない理由だ。 米国の大統領選挙に関して、これまで朝鮮が表明した立場は二つある。一つ目は、「朝鮮中央通信」が7月23日付で、トランプ候補に対し「公私は区別しなければならない」とし、「米国は朝米対決史における得失についてじっくり考え、正しい選択をした方が良いだろう」と論評したものだ。これは、金委員長が2018~2019年に積み上げたトランプ大統領との個人的な絆を、朝米関係に変革をもたらす「神秘的な力」だと捉えた誤った判断を繰り返さないという意味だ。 二つ目は、8月4日に出た金委員長の発言だ。金委員長は平壌(ピョンヤン)で行われた新型戦術弾道ミサイル発射台引き継ぎ式典で、「対話も対決も私たちの選択になりうるが、私たちがより徹底的に備えなければならないのは対決」だと述べた。また「対話をするにしても、対決をするにしても、強力な軍事力の保有は主権国家が一時も逃さず、また一歩も譲ってはならない義務であり権利」だと付け加えた。「我々の向き合っている米国は、決して数年間政権を握って退く一過性の行政府ではなく、まさに私たちの子孫たちも引き続き相手にすべき敵対的国家」である点をその理由に挙げた。金委員長が「対話」に言及したのは、2021年6月の労働党全員会議以来4年2カ月ぶりのことだ。 ならば、北朝鮮は次期米大統領として誰を望んでいるのだろうか。多くの人々はトランプ候補だと答える。ところが、そう簡単ではない。朝鮮が戦略的目標の重点をどこに置くかをまず考えなければならない。朝鮮が核武力をはじめとする「強力な軍事力の保有」に重点を置くなら、トランプ候補よりハリス候補がのほうが有利だと判断するかもしれない。その根拠は、ジョー・バイデン政権の3年間、朝鮮の核能力が倍増したことにある。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、バイデン政権が発足した2021年1月には朝鮮が40~50の核兵器を作れる核物質を保有しているとしながらも、実際にいくつの核兵器を製造したかについては判断を留保した。一方、3年が経った2024年1月には、50の核兵器を保有していると推定し、ここに核物質の保有量を加えると、最大90の核兵器を確保できる能力を持っていると分析した。 こうした北の核能力の拡大と高度化は、朝米対話「ゼロ」の時期と軌を一にする。まだ4カ月ほど任期が残っているが、バイデン大統領は1990年代以来、朝鮮と一度も対話できないままホワイトハウスを去る可能性が非常に高い。また、ハリス政権が発足した場合、北朝鮮政策も同盟と抑止力、ミサイル防衛体制(MD)の強化に重点を置いたバイデン政権の政策を踏襲するものとみられる。朝鮮が核能力の強化を優先する場合は、トランプ候補よりハリス候補の方がより有利だと判断するかもしれないという分析も、このような脈絡から出たものだ。また、戦略的同盟関係を樹立したロシアとの関係強化にも有利だと判断する可能性がある。 もちろん朝鮮がトランプ候補の再就任が有利だと判断しうる根拠もある。「トランプ2.0」時代に予想される韓米同盟と事実上の同盟に突き進んでいる韓米日軍事協力の亀裂が代表的な事例だ。また、トランプ候補が非核化を要求せず、軍備統制と軍縮交渉を提案し、緊張緩和と関係改善を図る可能性もあるが、朝鮮はこれを核保有国としての地位を固めるチャンスとみなす可能性がある。これは、朝鮮が核能力の強化よりは安全保障の需要を低くし、経済発展に有利な対外環境づくりに重点を置くならば、トランプ候補が朝鮮にとってより望ましいことを意味する。 要するに、朝鮮は米大統領として誰かを望んでいるというよりは、誰がなろうと対応する準備ができているとみた方が合理的だ。「対話も対決も私たちの選択」という金委員長の発言も、このような脈絡で理解する必要がある。「力の格差」が歴然とした過去の朝米関係に終止符を打ち、「同等」になったという認識が強くなっているのだ。そのため、韓国もきちんと備えなければならない。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が対北強硬策および韓米日同盟に「全賭け」した場合、ハリス候補が当選すれば「北朝鮮核の暴走」を、トランプ候補が当選すれば「韓国に対する仲間外れ」を引き起こす可能性が高くなる。困難を予防するためには、米大統領選挙で誰がなっても、両者であれ、多国間であれ、朝鮮との対話再開を進めなければならない。その出発点は「圧倒的な力の誇示」を自制し、対北朝鮮ビラを禁止するとともに、拡声器放送を中止することにある。 チョン・ウクシクン|ハンギョレ平和研究所所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )