20年以上もの間、日本に「新車」状態で存在していた !? 波乱万丈なイズデラ・インペラター108iがオークションに
以前、octane.jpでとり上げたことがあるイズデラ・インペラター108iは、1984年から1993年にかけて30台しか生産されなかった車両である。そんな車がアメリカ・カリフォルニア州を代表する車の祭典「モントレー・カー・ウィーク」に合わせてRMサザビーズのオークション(8月15日~17日)に出品されている。 【画像】登場時、大きな話題となり日本にも輸入されたイズデラ・インペラター108iの内外装(写真19点) イズデラのおさらいをすると同社は1982年、自動車デザイナーのエバーハルト・シュルツによって設立された。シュルツはカーデザイナーとして就職するために、自作の車両「エラト-GTE」に乗ってポルシェやメルセデス・ベンツの面接に挑んだ、という逸話をもつ。そして、ポルシェ在籍中もシュルツは暇を見つけてはメルセデス・ベンツ300SLの後継車を構想していた。 1970年代初頭、シュルツはライナー・ブッフマンが創業したbb社に移籍して、300SLの後継車となるコンセプトカーを勝手に作ることに。そして1978年、フランクフルトモーターショー「CW311」という名称にて披露された。しかも話題性を高めるためにメルセデス・ベンツから事前許諾を得ることなく“スリーポインテッドスター”をフロントグリルに取り付けたのだった。 本来なら訴訟問題に発展しそうな“事件”だがCW311は大好評を博したため、メルセデス・ベンツはエンブレムを装着することを事後承諾。今では考えられないような話に、自動車史のロマンを感じてしまう。もっともbb社からCW311が市販されることはなく“それなら自分で販売する!”とシュルツは1982年、イズデラを創業。なお、イズデラは 「“I”ngenieurbüro für “S”tyling, “De”sign und “R”acing」というドイツ語の頭文字を取った社名で、日本語に訳すと“スタイリング、デザイン、レーシングのエンジニアリング会社”を意味する。 インペラター108iはCW311をベースに市販化された車両である。チュブラースチール製スペースフレーム、グラスファイバーボディ、象徴的なガルウィングドアは、シュルツが生み出した当時の現代版300SLであった。車両のサスペンションは、前後ダブルウィッシュボーン、リアには上下のトランスバースリンクを採用。四輪すべてにコイルスプリングとディスクブレーキが奢られた。内装パーツの多くは、ポルシェ928から流用されている。イズデラが謳っていたインペラター108iの最高速度は175mph(約282km/h)、0-60mph(約97km/h)加速5.1秒だった。 搭載していたエンジンはメルセデス・ベンツM117の5リッターV8、M119の5リッターV8、AMGの5.6リッター、AMGの6リッターとバリエーションが豊富だった。当該車両は“シリーズ2”と呼ばれる、いわゆる後期型の1991年式でM119の5リッターV8エンジンを積んでいる。 この車両は日本にデリバリーされた稀少な個体であり、新車時の詳細な資料が付属している。なかには車両代金支払いから1年以上納車されないことへの文句と詫びのやりとりも。やがて神戸にあったイズデラ・ジャパンに納車されるも同社が倒産。その後、京都のクラシックカー専門店「LLコレクション」が引き取った。 「赤のスパイダー036iとシルバーのインペラター108iを新車で破産管財人から購入しました。スパイダーは知人が“欲しい”というのですぐにお譲りして、インペラター108iは7年くらい在庫として抱えていたように記憶しています。とにかくガルウィングとか、めずらしい車が好きなもので」と語ってくれたのは星起碩社長。ドイツから程度の良い黄色のインペラター108iも並行輸入したそうだが、後にシルバーに塗り替えたという。つまり2台のシルバー・インペラター108iが日本には存在した、ということだ。 インペラター108iのヒストリーに鑑み、LLコレクションではフロントグリルやホイールキャップにはスリーポインテッドスターを装着して販売したそうだが、今は“オリジナル”に戻されている。LLコレクションから販売されてからの足取りは明確ではないが、同車が東京の某中古車販売店で販売されていた履歴は判明している。RMサザビーズの資料のなかには車検証が含まれているが、なんと初年度登録は2015年3月。つまり新車のまま20年以上日本国内をウロチョロしていた、ということだ。しかもドラマチックなのは、2015年時点での所有者が千葉県で“夜逃げ”して昨年話題になった某アメ車販売店であったことだ。 当該車両がもつ、ある意味、波乱万丈なヒストリーには不思議なロマンを感じてしまう。 日本を離れたインペラター108iは2016年12月にイギリスへ渡り、2017年10月にはドイツにて13万ユーロ分のレストアが施された明細書が残っている。2021年にはボナムズのオークションに出品(走行893㎞)され、69万ユーロで落札された。現在、オドメーターは1912㎞を示しており、ようやく乗ってくれるオーナーの手に渡ったことが伺える。 RMサザビーズでは80万~100万ドルの落札予想価格が掲げられている。「幸せになれよ!」とこのインペラター108iにエールを送りたい。 文:古賀貴司(自動車王国) 写真:Remi Dargegen ©2024 Courtesy of RM Sotheby's Words: Takashi KOGA (carkingdom) Photography: Remi Dargegen ©2024 Courtesy of RM Sotheby's
古賀貴司 (自動車王国)