<世界的インフレは誰のせい?>金融政策の失敗なのか、利上げを決めた日本への教訓
高圧経済論という考え方がある。経済に金融財政両面から需要超過の圧力をかけることで、短期的に成長率を高めることができるだけでなく長期的にも成長率を高めることができるという考え方である。 【図表】各国のインフレ率の推移 高圧経済によって労働者が職に就くことで技能が高まり、人手不足によって合理化投資が行われて生産性が高まることなどが期待できるからだ(詳しくは原田泰・飯田泰之編著『高圧経済とは何か』金融財政事情、2023年、参照)。高圧経済(High Pressure Economy)という言葉は2016年にジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)によるスピーチ(Janet Yellen, “Macroeconomic Research After the Crisis,” 60th annual economic conference by Federal Reserve Bank od Boston, Massachusetts.)で使われ、大きな注目を集めたものだ。 ところが22年には、世界的にインフレ率が高進した。日本のインフレ率はピークで4.3%にとどまっていたが、世界的には10%近いインフレ率を示していた。 これは22年のロシアのウクライナへの侵攻にともなう世界的エネルギー価格や食糧価格の上昇に依るものだが、雇用維持や高圧経済のために金融財政政策が過度に緩和的になったからであり、金融政策の失敗であるという声もあった。以下、欧米のインフレ高進は金融政策の失敗だったという説について考えてみたい。また、これの日本に対する教訓についても考えたい。
政策金利と物価の関係
22年の欧米のインフレ率(前年同月比、以下同)は、図1に見るように大きく上昇した。米国の場合、22年6月に9.0%とピークを付け、英国では22年10月に同9.6%、独も同月に11.6%、フランスは23年2月に7.3%とピークを付けた。その後、鈍化したが、24年6月現在でもすべての国で2%を上回っている。