経験が新たな可能性を拓く――石田健大が行き着いた場所/FOR REAL - in progress -
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。
11月14日、横浜スタジアム――。 半月ばかり季節を巻き戻したかのような暖かい秋晴れの午後。乾いた空気に心地よく響く拍手の音に包まれて、2020年のレギュラーシーズン最終戦はプレーボールのときを迎えた。 先発の平良拳太郎は、ジャイアンツ打線を1失点で抑えて自らの投球スタイルが確立されつつあることをあらためて示す。6回にはファームでの調整を経て一軍に復帰した山崎康晃が登板し、2本の安打を許しながら無失点で切り抜けた。正確なスローイングによる盗塁阻止で助けたのは戸柱恭孝だった。 7回は、7年目にして初めて一軍でシーズンを完走した平田真吾がマウンドに立つ。しかし、四球と安打で1アウト一三塁。ここで石田健大にスイッチした。 失策とスクイズで2点を失い、差は3点に広がった。中継ぎ一本で50試合目の登板。最後は石川慎吾をセカンドゴロに打ち取って、この一年の務めを終えた。
先発として投げたい気持ちは――。
春季キャンプの段階で、石田は先発ローテーション入りに意欲を燃やしていた。延期のすえ設定された6月19日の開幕が迫っていたときも、その気持ちに変わりはなかった。 だが、チームは背番号14に中継ぎとしての役割を求めた。石田が明かす。 「開幕前、(練習試合で)最後に先発として投げ終わった日に、A.ラミレス監督から直接『中継ぎで投げてほしい』と言われました。それを聞いたときは、正直、戸惑う部分はありました。自分としては準備もできていたし、先発するという頭で開幕を迎えようとしていたので……。その時点ではまだ、先発でやりたいって気持ちはもちろんありました」 いざ開幕を迎えると、ブルペンの貴重な左腕として、頼られる場面は多かった。「始まってしまえば、もう投げるしかない」。送り出されたマウンドで無心に投げた。 石田は今シーズンの登板1試合目、6月20日のカープ戦で1点を失ったあとは、完璧に近い投球を続けた。8月21日のドラゴンズ戦で2失点を喫して敗戦投手になるまで2カ月間、自責点はゼロ。22試合に登板し終えた時点で、防御率は0.47だった。