水谷利権をめぐる20億円の裏金捜査のはずが… 福島県知事汚職事件が特捜の“大汚点”となった顛末
アルジェリアへ避難した理由
経理担当の側近が逮捕され、みずからの喉元に捜査の切っ先が迫るなか、水谷功本人はいったん国外に避難した。行く先は、アフリカのアルジェリアだ。かつてのフランス領である。 水谷建設は、日本政府が進めるアルジェリアの政府開発援助(ODA)事業に参加していた。表向き水谷の渡航は、工事視察のための海外出張だった。だが、もちろん目的はそれだけではない。 「水谷建設の裏金は、もっぱら海外で捻出されてきました。特捜部の捜査が迫るなか、その対策を練る必要に迫られたのではないでしょうか」 当時、水谷功の相談に乗っていた水谷建設の関係者は、その行動についてこう注釈を付ける。すでに当人がみずからの逮捕を予見していたのかもしれない。06年7月1日に日本を離れたあと、しばらく帰国しなかった。当初、フランス経由で帰国する予定だった成田便をキャンセルし、経由地のパリで捜査の様子をうかがっていたという。その間、水谷建設の経理担当常務をはじめ、側近たちが東京地検に次々と逮捕された。一方で当の水谷功は帰国前日にあたる7月7日夜、パリで朝日新聞の電話インタビューに答えている。 〈何で私ばかりをいじめるのかなあ。(捜査に)協力してほしいと言ってくれれば応じるのに、私をたたこうとしている〉(06年7月13日付朝日新聞朝刊)
空港で待ち構えていた特捜検事
逮捕された常務について、8日夜にはこう言った。 〈あいつには責任がない。僕が出て、あいつを早く帰さないとかわいそうだ〉(同前) その言葉どおり12日、水谷はパリからマカオに立ち寄って韓国の仁川空港に向かう。驚いたことに、パリからの帰国途中、ソウルのカジノ、ウォーカーヒルに立ち寄ったという。そうしてようやく、全日空機で金浦空港から羽田空港に向かった。 羽田空港で水谷を迎えたのは、拡張された現在の真新しい国際線ターミナルビルではない。以前、空港敷地のなかの隅にぽつりとあった、古くて小さな国際線用ターミナルだ。水谷がそこにあらわれたところを、待ち構えていた10人の東京地検の特捜検事や係官がとり囲んだ。逮捕状を突きつけられ、そのまま身柄を拘束された。 直接の逮捕容疑は、前述した11億4千万円の脱税だ。しかし地検の本当の狙いは、彼が深くかかわる複雑な政界利権の解明である。福島県知事汚職は、あくまでその捜査の一端だと見られていた。