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秘境の養蜂家に密着3年…『ハニーランド』が問いかける、“自然との共生”と真実

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MOVIE WALKER PRESS

一人の女性が広大な荒野を進み、足場は数十センチの幅しかない断崖絶壁をひたすら歩く、ダイナミックな映像で幕を開ける『ハニーランド 永遠の谷』(公開中)。本作はギリシャの北に位置する北マケドニアを舞台に、自然に寄り添いながら養蜂を営む女性を追ったドキュメンタリーだ。史上初めて、米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞と国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)の両方にノミネートされるという快挙を成しとげた。 【写真を見る】人類が自然とのつながりを無視した際に起こる損失を映しだす バルカン半島奥深くの孤立した山岳地帯にある道路も電気も水道も通じていない村で、病気の母親と二人暮らしをしているハティツェ・ムラトヴァ。彼女はヨーロッパ最後の自然養蜂家で、定期的に徒歩約4時間、20kmほど離れた首都スコピエの街で蜂蜜を売りながら、つつましくも平穏な日々を過ごしていた。そんな彼女の暮らしは、けたたましいエンジン音を上げるトレーラーハウスやたくさんの牛と共にやってきた9人家族の登場で一変する。 ■自然や他者とのかかわり方を大切にする生き方 ハティツェの生活は自然との絶妙なバランスを保つことで成り立っている。蜂の巣箱から蜂蜜を搾取する際は、全てを持ち去ることはせず、「半分はわたしに、半分はあなたに」の信条を大切にしている。自身が自然の中の一部であるとし、恩恵を与えてくれる蜂を尊重しているからだ。 一方で、人里離れた土地で暮らしてはいるが社交的な性格で、街の人とも気さくに会話し、彼女の蜂蜜は絶品だと高い信頼を寄せられている。よそ者の一家に対しても、すぐに心を開き、子どもたちと遊び、蜂蜜の作り方や自然の中で暮らすノウハウを教えている。他者とのかかわり方で様々な軋轢が起きてしまう現代社会においても、彼女の生き方から学べることは多いはず。 ■自然との調和が崩れた際の損失は計り知れない ハティツェと隣人との関係、自然との調和は少しずつ崩れていく。子どもたちを養い、教育を受けさせるため、金の工面に苦労する父親は、ハティツェにならって養蜂を始めることに。しかし、思うような量の蜂蜜は取れず、彼女の教えを破り、全ての蜂蜜を搾取する。その結果、巣を奪われた蜂たちは攻撃的になり、近くにあるハティツェの蜂の巣を攻撃し、蜂たちを殺してしまう。苦言を呈す彼女だったが、父親は関係ないと取り合わず、野焼きによって養蜂に必要な木々まで燃やし、ハティツェが利用する蜂の巣がある枯れ木まで切り落とすといった愚行を続けていく。 身勝手な彼の行動は、自分たちだけではなく、ハティツェの生活にも悪影響を及ぼすことに。自然とのつながりを無視し、そのバランスが崩れた時の損失は計り知れないからだ。本作は、小さな村での出来事を映しだしているが、本質的には誰もが人ごととしては片づけられない、秩序やその崩壊、孤独といった、いままさに世界が抱えている問題を的確に捉え、スケールの大きさを感じさせる。 3年の歳月と400時間以上の撮影から生みだされ、ドキュメンタリーでありながら、心の琴線に触れるドラマ性にも満ちた『ハニーランド 永遠の谷』。苦難や悲しみを乗り越えながら、自然と共に生きるハティツェの姿は、一度観たら忘れられない強い印象を記憶に刻みつける。 文/平尾嘉浩(トライワークス)

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