子どもに「自由にしていいよ」と言う親ほど、じつは「残酷」なワケ…精神科医が指摘する「極端な放任主義」の危険性
「『子どもには自由にさせています』と言うけれど、子どもは自由奔放に生きてるわけではなくて、むしろ路頭に迷ってるだけ、というケースは診療の現場でもよく見かけます」……。そう指摘するのは、精神科医で詩人の尾久守侑氏だ。思春期を迎えた子どもに対し、親はどんな距離感で接すればよいのだろうか。『「学び」がわからなくなったときに読む本』の編著者である鳥羽和久氏が聞く。 【一覧】入ると“損”する「私立大学」ランキング…コスパ最悪だった意外な名門大学
子どもの「過剰適応」とは何か?
鳥羽尾久さんは精神科医として思春期の子どもたちを診ているだけでなく、詩人・文筆家としても活躍されています。なぜこんなにユニークな文章が書けるんだと尾久さんにはいつも驚かされます。そもそも、書くようになったのはいつ頃ですか。 尾久詩は子どもの頃からずっと書いていました。投稿を始めたのは、大学生のときです。二〇一一年の終わり頃かな。 鳥羽きっかけがあったんですか。 尾久ちょうどその時期に後輩が自殺したんです。当時、自分では意識してなかったんですが、そのことと詩を投稿し始めたことはたぶん関係しています。 鳥羽二〇一一年、そうですか。子ども時代の尾久さんにとって、詩を書くとはどんな行為でしたか? 尾久優等生を演じている自分とのバランスを取る行為だったでしょうね。ひっそりと詩を書くことが自分なりの反抗だったというか。当時は、そんなことを思って書いていたわけではないですけど。 鳥羽バランスとのことですが、以前、尾久さんと話したとき(*1)に「過剰適応(*2)」という言葉が出てきました。学校の規則や慣習に積極的に染まっていく。そのあり方が過剰であったと。ただの優等生ではないわけですよね。 (*1)二〇二三年五月、本屋B&Bで開催されたイベント「人との距離の取り方について」(『偽者論』『「推し」の文化論』W刊行記念)。 (*2)置かれた環境に合わせようと自分の考えや行動を制限しすぎてしまう状態のこと。心理学では、自分よりも周りを優先させて無理しながらもがんばってしまう状態を指すこともある。 尾久ただの優等生ではなくて、もはや学校と同一化していました。学校が言うことについて、一切疑いを持たない子だったんです。 鳥羽僕は、自分がとことん反抗する子どもだったので、学校に疑いを持たないという状態が、まったく想像できません。 尾久きっとそうですよね。多くの学生は、表立って反抗しないにしても、少なからず反発心は抱いています。でも僕は、学校と一体になることで、教師とよい関係が築けて、それがよい学校生活につながると信じていたんです。 振り返ってみても、そうして築いた関係はよかったと思います。過剰適応のストレスに無自覚にいられたのも、詩を書くことでやり過ごしていたからなのかなと。 鳥羽ご両親は「勉強しなさい」や「いい子にしてなさい」と口うるさく言うタイプでしたか? 尾久口に出しては言いません。でも、非言語でメッセージを発していたので、僕が勝手にくみ取っていました。父親も医者だったので、「医学部に行った人はね……」という話を聞かされていて、医学部に行くのは当然なんだと刷り込まれる。ただし「お前も医者になれ」と言われたことは一度もありません。