斜陽産業を再生へ スキー場を甦らせた経営戦略とは
その練習中、「ウチのスキー場も大変なのよねぇ」という話から、「じゃぁ、まぁちょっとやってみましょうかね」と、いずれ宿泊施設も建てるつもりで、マックアース社で引き受けることにした。 一ノ本氏によれば菅平は雪質が非常にいい上に、圧雪と雪作りが完璧なのだという。「ここで衝撃だったのは、すごい圧雪とか降雪の技術持っているんですよ。『ここしかないだろう、このノウハウは』っていうくらいすごく高い技術を持っているのに、パンフレットを作ったことないって言うんです。“営業”という二文字は、このスキー場にはなかったですね」。 そこで思い知った。「あれ~?スキー場って1個1個違うんだ」と。「外から見たら同じようにリフト架かってて、雪があってリフト券売っててっていう商売に見えるんですけど、中に入るとものすごく違うなと。リフトの整備の仕方ひとつとっても、マーケティング手法も。そもそもマーケティング無しみたいなスキー場があるくらい、すごい違うぞと」。驚かされたが、これが転機になった。 「数をやって、いいとこ悪いとこちゃんと突き詰めて正していくと、救われるスキー場が相当あるんじゃないのか。逆に数増やしていかないと残れないんじゃないのか」。菅平での衝撃が、やがて27ものスキー場を経営することに繋がった。 ではこれだけ数多くのスキー場経営をすることのメリットはどこにあるのだろう。一ノ本氏は「ノウハウの結集と情報の共有」だと語る。「それぞれ1つ1つがそんなめちゃくちゃ大きくない事業体だし、全部、谷間谷間にありますから情報が共有されにくいんでしょうね、きっと。一つ谷が違えば言葉が違うようなもんで」。まとめることで、それぞれのノウハウと情報が全てに行き渡るようになった。 ■成功の鍵は(1)コストカット、(2)マーケティングと宣伝、(3)企画、(4)各スキー場の個性化 一ノ本氏の成功の秘訣はまだまだある。海外からのルートを開拓して機械や部品を並行輸入し、大幅なコストカットを実現した。「圧雪車も並行輸入したんですけど、グルーミングマシーンですね。あのデカい黄色いガーッといくヤツね。そんなのもウチしかやってないですね。ゲートシステムもウチが独占販売権を持っているのもありますし」。リフトも自社で建てるなど、アンタッチャブルだった部分に切り込んでいった。 「やっぱねぇ、日本はガラパゴスな国なんですよね。1個1個の事業体が小さかったから、どうしてもメーカーさん依存度が強かったんですよ」。そこには競争原理が働かず、「安全」を切り札に提示されたものは疑いもせず受け入れていた。続いてマーケティングと宣伝だ。一ノ本氏曰く、「今やスキー場にお客さんが来ない最大の理由は3つあって、スキー場を知らない、忘れた、思い出さない、この3つなんですよ。知らなきゃ辿り着けるわけないんで、絶対来ない」。