築75年・再建築不可の実家に残る昭和レトロ家具を<全部無料のガレージセール>に出してみた。「全部貰うから動かさないで!」と言ってきた人の正体とは
◆嵐のようにやってきた人物 そして最後に背の高くて若い兄ちゃん、その場のものを動かすなという謎指定をしてきたFさんが到着しました。 「これ、動かしてないですよね!?」 「え、は、はい……たぶん」 なんで事件現場でもないのにそんな……? もしかしてきみは覆面税務署員とか覆面捜査員とかだったりする? 我々身内が知らないうちにこの空き家がなんらかの現場になってたり、する? 「何だろうあの人」 「写真に大麻でも写ってたかな」 思わずヒソヒソ声になる私と母。 しかし何度見ても窓際と縁側にあったのは枯れて死の大地と化していたカピカピのプランターとサボテンしかない。大麻どころか生命が育つ要素がなにひとつないが! 「いいですか、ここ一式、ぜんぶ貰います。いまから運び出すので触らないでください!」 謎の兄ちゃんは嵐のようにやってきて、その場を仕切り始めたのだった。
◆兄ちゃんの意欲 「ドレッサーの引き出しはあけましたか」 「あ、はい。でも古い化粧品とかしか出てこなかったですよ」 叔母は化粧品販売員だったらしく、山のようにポーラ化粧品の試供品が出てきたし、30年前のディオールの口紅とかでてきて、そういえば昔からディオールってこの不思議な藍色のスティックケースだよなあとしみじみ楽しく見ていたのだった。 私が見る限り、カフスケースやジュエリーケースもないわけではなかったが、中は空っぽだったし、そんな高価なものがあればそもそも叔父は兄弟が相続した実家に住んでいたりはしなかっただろう。バブルがはじけたあとは水商売も大変だったと聞くし。 そこにさっと横切る黒い影。あっ、あなたは最初に来た古着屋のおじさん。しかしFさんは鋭い視線を投げかけ、 「あの人はそこの引き出しを開けてましたか?」 「えっ、さ、さあ……?」 そんなことを言われても、この家からひとつでも多くものがなくなればいいと思っている私たちは困惑するのみ。 「もし、貴金属類が出てきたら、……いえ、何か出てきたら、必ず僕に声をかけてください。ちゃんと買い取りますので」 「あー、はい……」 兄ちゃんはきびきびと、大きなプラスチックボックスに食器という食器を詰め込みはじめた。 「これ、あとで取りに来ますんで、キープということで」 どれだけ持ってきたのか、どんどんプラケースを取り出し、食器類をすべて確保してしまった。 手持ちのボックスを使い果たしてもまだあるうちの家の残置物の量もやばいが、兄ちゃんの意欲もすごい。
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