「夜逃げ屋」は「ボロボロに虐げられた」人の最後の「セーフティーネット」 現場スタッフが語る「存在意義」とは
「離婚が怖いとか、世間体もあったのでしょう。それ以上に、相手を選び間違えたことを自分自身で受け入れられない。子供ができたら、元の夫に戻ってくれるかもしれない。そんな複雑な心境のまま、行動に移すのが遅れてしまったようでした」(宮野さん) ついに耐え切れなくなり離婚を切り出すと、夫は大暴れ。ようやく決心して、夜逃げ屋に来たという顛末だった。 ■ミッションは「夜逃げを終えるところまで」 DVなどの問題で取りざたされる「共依存」の関係性も、行動が遅れてしまう大きな要因だ。 共依存は、被害者が加害者に対し、「私がいないと、この人はダメになる」「私がこの人の暴力を受け止めなくては」などと考えるようになり、そこに自分の存在意義を見いだしてしまう。DV夫に、ある種依存している状態だ。 「共依存に陥った被害者は非常に多いと感じます。『私しかいない』『私が暴力に耐えれば解決する。他人を巻き込まなくて済む』などと完全に思い込む。そんな状態が長く続いてしまうのです」(同) せっかく夜逃げに成功したのに、加害者のもとに出戻ってしまった事例も、わずかだがあるという。社長は依頼を受けた際、「万が一、出戻ったら次の依頼は受けない」とはっきり説明するのだが、新しい生活が孤独だったのか、共依存から抜け出せなかったのか――。 夜逃げ屋のミッションは、基本的には引っ越しを終えるところまで。依頼者は、新生活の費用を自分で用意しなければならない。加害者の監視下で仕事ができず収入がなく、親や知人からお金を借りる人もいる。 ■「絶対に幸せになれるよ」に「そんなことは言わない」 宮野さんは、過去に社長が口にした言葉を強く覚えている。漫画の一コマで、作中の宮野さんが夜逃げの依頼者に話しかけるシーンの案を考えていたときのことだ。 「絶対に幸せになれるよ」 宮野さんは、そう入れようとした。 「私は絶対にそんなことは言わない!」 社長は全否定したという。