ヒーローは浅草の「佃煮屋」の祖父と父だった 江戸時代から「一子相伝」の味を継ぐ、立教大卒の30歳
◆「守るべき軸」と「新たな挑戦」
――社長を承継するのはいつの予定ですか? 代替わりはまだまだ先ですね。毎日釜場に立っているとはいえ、まだ一人で佃煮を作ることはできません。 今は入社して7年目になりますが、最近は経営についても少しずつ学んでいます。 最も重要な仕事である佃煮作りだけでなく、経営面も含めてトータルで、「まかせても大丈夫だ」と父が認めたときに承継となりますが、それが具体的にいつなのかはまだわかりません。 父は、39歳で代表取締役に就任し、5代目襲名は44歳でした。 ――「鮒佐」というブランドを継承することに対して、お考えをお聞かせください。 守らなければならない軸は守りながら、必要に応じて変えていくところがある、と思いっています。 うちの場合は、「守るべき軸」となるのは佃煮の味や製法などですが、近年では軸を守りながら新商品の開発にも取り組んでいます。 うちで常に販売する佃煮は、昆布、ごぼう、あさり、エビ、しらす、穴子の6種類。 そこに、季節ごとの商品が加わります。「新商品」はほとんどありませんが、数年前、鮎の佃煮を作ってみたところ、納得のいくものができたので、季節限定で商品化しました。 これは実に百数十年ぶりの新商品となりました。 ほかにも、過去に販売していた商品で、現在は材料が入手しにくいなどの理由で途絶えている商品を復活させたいですね。 すでに成功例があり、海苔の佃煮がそのひとつ。 鮎と同様、季節限定で商品化して売り出しています。 後継者として、伝統をそのまま次世代に受け渡すのではなく、伝統を守るために時代に対応して変えるところは変える、どこをどう変えていくかを見極めることが、重要だと考えています。
■プロフィール
大野 真徳(おおの・まさのり) 1994年生まれ。立教大学観光学部交流文化学科卒業。学生時代はバックパッカーとして、アフリカ大陸縦断など世界50カ国以上を旅する。2017年、大学卒業と同時に家業の株式会社「鮒佐」に入社した。将来は6代目を襲名する予定で、5代目当主の父と共に釜場に立って佃煮を作り続けている。また、老舗の多い近隣の商店主らと協力し、歴史ある街の活性化にも取り組んでいる。