一歩ずつ、前へ――倉本寿彦と柴田竜拓、それぞれの思い/FOR REAL - in progress -
優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。
2019年、倉本寿彦はシーズンのおよそ3分の2をファームで過ごした。 開幕は一軍。4月6日に放った初安打が決勝打となり、横浜スタジアムのお立ち台に上がった。だが、スタメン入りした3試合をノーヒットで終えるなど成績が振るわず、4月29日に出場選手登録を抹消された。 昇格の機会は2度あったが、見せ場はつくれなかった。33打数4安打。打率.121という寂しい数字が残った。 昨シーズンを振り返り、倉本は言う。 「苦しいというより、不安のほうが大きかった。これからどうなるんだろう。どうしていったらいいのか。そういうことをすごく考えました」 入団2年目の2016年、3割に迫る打率をマークして遊撃手のレギュラーになった。2017年、不振の時期を乗り越えて、チーム唯一のフルイニング出場を果たした。 ところが、2018年のスタメン出場数は55試合、2019年はわずかに5試合。 プロ野球の世界に安泰はないといえども、倉本の立場の悪化は急角度だ。自分自身が努力して、結果を出して、返り咲く。それが唯一の道と知りながらも、気持ちのベクトルは散乱した。 「今年みたいに、(目の前の)一試合をどうするかという考え方はできなかったですね。精神的にちょっと弱いというか、幼かったというか。今年と比べたら、自分と戦ってなかったな、とは思います」 ただ、内面の葛藤は現実を動かさない。突破口を開くのは、自分しかいない。 「チャンスは少ないって、最初からそう思っていたので。『試合に出たときにどうするか』ということだけを考えていました」
好循環の歯車が回り始めた。
2020年の開幕からしばらくの間、たしかにチャンスは少なかった。 6月は4打数ノーヒット。7月は、12日のタイガース戦を終えた段階で打席に立てたのは2度だけだった。結果は四球とピッチャーゴロ。依然、打率の欄にはゼロが3つ並んでいた。