【宇垣美里】あのころの恋愛をふと思い出す。会わなければよかった人なんていない。
今回の宇垣美里さんのエッセイは、“別れ”のエピソードの一つを、少しだけ掘り下げて綴っていただきました。フリーアナウンサーとなり、次のステップへと歩みはじめた宇垣美里から見えている世界は、もしかしたら私たちとは少しだけ違うのかも。 >>オリジナル記事を読む! 【宇垣美里エッセイ】あのころの恋愛をふと思い出す。会わなければよかった人なんていない。
第十章 『仰げば尊し』(三)
もう28歳だから、それなりに出会った人はいたし、何人かの人とさよならをした。 一緒にいることが一番の幸せだったはずなのに、少しずつ歩調がずれて道を違えてしまったその人のことを、何かのきっかけでふと思い出すこともある。 例えば好きだった食べ物。一緒に行った美術館。飼っていたペット。時たま漏れる方言。食べるときのクセ。あまりにも些細で、他の人が気にも留めないような何気ない火種が時折胸をかすめては小さく波をたてる。けれど、それもすべて過去のこと。 忘れはしない、なかったことにしたら、歯を食いしばって頑張った自分が可哀相だから。
あの頃の慟哭も痛みも喜びも全部遠いどこかへ埋めた。 鍵はどこかに捨てたかもしれない。もう終わったことだ。 その人の人生に参加しなくなった私は、もうその人がどこで何をしているかも知らない。 けれど好きだと言うから何度も作った料理はもうレシピを見なくとも作れる得意料理になったし、一緒に見ていた海外ドラマは今も見続けている。 関係の中で生まれたものと、その先も生きていけるなら、会わなければよかった人なんて、きっといない。
宇垣美里にQ&A
Q. 上京します。東京にきて宇垣さんが一番驚いたことや感動したことは何ですか?(ash 男性) A.マジで渋谷って、スクランブル交差点ってあるんだ!って思いました。嘘でなく祭りかと疑いました。ドラマで見たことある場所を実際に自分が歩いてるなんて、なんだか未だに信じられない。あと電車がすぐ来る。満員電車が尋常ではない。“いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう”というドラマで“東京は夢が叶わなかったことを気づかなくしてくれる街”と言っていて思わず膝を打ったけど、機会が山ほどあって人が海ほどいて誰も誰をも見ていなくて自由。ストレンジャーの街。私は好き。
宇垣 美里(うがき みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。無類のコスメ好きとしても有名で、コラムやエッセイなど執筆活動も行っている。