ジャガーEタイプ S1(2) スタイリングにもメカニズムにも魅了! 人生へ大きな影響を与えた1台
全体的なボディの酸化は抑えられていた
「普段はガレージへ仕舞っていて、殆ど外は走っていなかったので、目立つような錆はありませんでした。でも、あちこち塗装がひび割れていたのは間違いありません」 彼の購入前、英国のミルレーン・エンジニアリング社がレストアしたのは、1980年代の終り。30年以上、AJB 396AのEタイプは目立った手入れが施されていなかった。その間にどの程度劣化しているのかは、モートンにとっても興味深いことだったようだ。 ボディのレストアを請け負ったのは、Eタイプを専門に扱うクレイトン・クラシックス社に在籍した経験を持つ、ポール・テイラー氏。2014年に、自身のワークショップを立ち上げたという。板金的な修理だけでなく、腐食防止に関する技術にも造詣は深い。 バークのEタイプは、酷い状態ではなかったが、湿気を招きがちな古いパテがサイドシルへ用いられていると判断。ほぼ30年間乗られていなかったことで、全体的な酸化は抑えられていることも明らかになった。 Eタイプは、現在へ至るまでに2度や3度のレストアを受けている例が珍しくない。しかし、彼のクルマは1度だけなことも判明した。
スタイリングにもメカニズムにも夢中なまま
ステアリングホイールを、バークが優しく握る。「運転に難しさはまったくありません。ダッシュボードの雰囲気と、ドライビングポジションが好きですね。モス社製のトランスミッションも、ミュートラルで一拍おけば、問題なしです」 ストレートカット・ギアが組まれる1速から、バークが巧みにシフトアップする。インテリアトリムの殆どはオリジナル。S1は新調されている場合が多く、その過程で当時のニュアンスが失われてしまうのだが、彼のEタイプは異なる。 「このラジオも、モトローラ社製のオリジナル。内部が温まるまで、少し待つ必要があります。古い番組を受信するようなものだと考えれば、気になりません」。3年間に及ぶレストアを終え、帰ってきたEタイプに彼は深く満足している。 紳士的な作業で仕上げられたこのクルマの今後へ、考えを巡らせるようになったそうだ。「ただ状態を保つだけへ戻ったら、レストアは意味のないものになってしまう。もっと乗った方が良いですよね」 「今はまだ、所有していたいと思います。でも遅かれ早かれ、売ることになるでしょう」。若々しく見えるバークの自宅には、充分に広いガレージがあり、資金的に維持が難しいわけではない。手放すのは、健康上の理由になるはず。 Eタイプのように、人生へ大きな影響を与えるほどのクルマは、今後登場するだろうか。バークは約60年前のジャガーへ、今でも特別な気持ちで接している。リスペクトを持って。レストアを経て、スタイリングにもメカニズムにも、改めて魅了されたようだ。
マーティン・バックリー(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)