もっと考察『光る君へ』平安初心者の夫に「衣装の違いを知ると、ドラマがぐっと身近になる」と語ってみた(特別編)
平安貴族のTPO
「ほかに仕事着、フォーマルとカジュアルの見分け方はないのかね」 「男性登場人物の場合、ポイントは頭に被っているものかな。平安時代は身分の上下関係なく、僧侶以外の男性は必ず烏帽子か冠を着けているよね」 「乙丸(矢部太郎)と百舌彦(本多力)も、ぺチャッとしてるけど被ってるな」 「そう、あれも烏帽子の一種。道長が自宅やまひろとのデート場面で被っている、飾りが何もついていないシュッとした被り物は烏帽子で、日常生活の場で着けるもの。 箸みたいな笄(こうがい)が髷の根元部分にブスッと刺さっている、後頭部あたりからひらひらした飾り・纓(えい)が垂れ下がっているのは垂纓冠(すいえいのかんむり)。 武官は、こめかみのあたりに半円形の飾り(緌/おいかけ)をつけて、纓(えい)がクルンと丸まった巻纓冠(けんえいのかんむり)だよ。これらを被っているときは、ほとんどの場合が内裏の場面。袍と組み合わせるよ」 垂纓冠と直衣の組み合わせは冠直衣といって、ドラマでは伊周(三浦翔平)が16話、香炉峰の雪の場面で身に着け、公任(町田啓太)に「帝の御前で伊周のあの直衣は許しがたい」言われ、斉信(金田哲)の「帝がお許しになられているからどうにもならないが」という台詞がある。平安中期、天皇の許しを得た者だけが冠直衣姿で参内できた。 そして最新の26話、彰子(見上愛)の裳着の儀に参列した貴族たちの装いでも冠直衣が見られた。倫子と道長の屋敷……土御門殿だから公的な場ではないので直衣、しかし女子の成人式にあたる儀式であるし、女院さまが腰結役として同席されているので改まった装いが必要ということで、儀式を見守る多くの者が烏帽子ではなく垂纓冠の冠直衣姿。他にフォーマルだから内裏と同じく黒い袍の者もいる、ただしボトムスは表袴でなく指貫に変えている(この姿を布袴/ほうこ、という)……礼服のネクタイをシーン、立場によって替えるようなイメージだろうか。 「職場ではスーツやユニフォームと決まってるからその点は気楽だけれども、TPOが求められる冠婚葬祭や、つきあいの場では服装に気を遣う……平安貴族も我々とおんなじだな」 お茶をすすりつつ、いろいろ思い出している顔で夫は言った。 「場違いな格好をして大失敗!というやつもいたんじゃないかね」 「実資が日記『小右記』で他人の服装について、あの場でああいった装いはどうなのだ。前代未聞だ、軽率だ!と書いてるよ」 「いかにも書きそうだ」 夫婦ふたりとも、それを秋山竜次で想像してわっはっはと笑い合う。
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