もっと考察『光る君へ』平安初心者の夫に「衣装の違いを知ると、ドラマがぐっと身近になる」と語ってみた(特別編)
ちやは惨殺シーンに悲鳴
話は『光る君へ』第1話放送当日のこと。 テレビの前に座り、ついに始まった!とキャッキャワクワクする私の隣で、大河ドラマ鑑賞はまあ習慣だから……と、のんびりソファに寝そべって視聴していた夫は、ラスト近く、まひろの母・ちやは(国仲涼子)の惨殺シーンに「キャーッ」と悲鳴をあげ「どうして、父上! なぜ! みちかねをつかまえて!」と泣くまひろ(落井実結子)に、権力に抗いたくても抗えぬ父・為時(岸谷五朗)に泣いたのであった。 そしてそれ以降、毎週 「道兼(玉置玲央)、お前は不憫なやつだ。お父ちゃん(兼家/段田安則)のせいで歪んじゃって」 「弟くん(惟規/高杉真宙)は和むなあ」 「実資(秋山竜次)は信じられる」 「井浦新は本当は平安時代からタイムスリップしてきたんじゃないの?貴族が似合いすぎなんだけど」 「まひろ(吉高由里子)の琵琶はコレ、上手いの?下手なの?」 などなど言いながら、楽しそうに観ている。 つまり心底ハマったのだ。夫が同じドラマにハマってくれて、私も嬉しい。 しかし見慣れた戦国大河とは時代が違うために、ちょっと戸惑うこともしばしばのようだ。 それが、冒頭の「この場面は一体どこなんだ?と、わからなくなる時がある」だった。 確かに、戦国モノ大河ドラマの映像作品としての強みは、甲冑による画面の変化、緩急である。戦闘シーンでなくとも甲冑姿の武将たちが会話しているだけでメリハリがつく。そういう意味では、貴族社会を描く平安中期大河はいささか不利だ……。夫に集中を途切れさせず視聴を続けてもらいたい。ハマり続けて、できれば福井県越前市・滋賀県大津市・京都府宇治市それぞれの大河ドラマ館にも旅し、一緒にキャッキャしたい。今年の私は、それを望んでいる。 「そうだ、衣装。甲冑ではなくとも貴族社会が舞台の『光る君へ』は、着ているものの違いで場面を判断しやすいはず。なぜなら、職場である朝廷でなにを身に着けるのか、貴族である彼らは衣服の制度……「服制(ふくせい)」で決められていたから!」 「服制……着るものに法律があったっていうこと?」 「そうそう。有名なところでは聖徳太子が決めた『冠位十二階』がそれに当たるのだけれど、そのあと『大宝律令』『養老律令』の『衣服令(えぶくりょう)』で朝廷で着用するもののルールが決められて、その後は朝廷、日常生活の場ともに生活に合せて身に着けるものが変わっていったらしい」 「また蘊蓄(うんちく)ですかい」 夫はちょっと笑いながら、呆れて言う。 「アハハ!失礼、つい」 「つまりは、甲冑でなくとも、登場人物の着ているものの見分けがつくようになれば場面転換についていくのも簡単だと」 「そう思う。朝廷に参内(さんだい/出勤すること)するときは、位のある貴族の男性は束帯(そくたい)姿。トップスは袍(ほう)、ボトムスは表袴(うえのはかま)。位で色分けするのを位色(いしょく)といって、四位以上は黒、五位は赤、六位以下は緑。あとは兼家と道隆、ふたりの関白が帝のお許しを得て着た白一色。正式な仕事着だから、それを着ている場面はほぼ朝廷、宮中のシーン。帰宅してすぐの自宅で妻子と話している場面もあるけれども」 「兄弟姉妹で話している場合も自宅だろう?」 「兄弟姉妹でも、たとえば女御から女院になった詮子(吉田羊)と道長(柄本佑)道隆(井浦新)が話しているときに、彼らが赤とか黒とかの袍を着ていれば、それは宮中。それ以外のものを着ていれば、東三条邸(兼家の家)や土御門邸(倫子/黒木華 の家)など」 「それ以外……」 「狩衣(かりぎぬ)とか直衣(のうし)かな」 またわからんことを言い始めた、という顔をする夫。 「ものすごくざっくり言えば、白一色・黒一色・赤一色・緑一色の袍とは別の色で、大きな柄がついてるのを着ていればそれは日常的な普段着。その姿でいられるのは自宅とか、友達の家とかなんですよ。狩衣のほうがよりカジュアル。直衣は身分の高い貴族が着るもの。第1話でいえば、兼家の家族が揃って食事する場面では、直衣姿なのは父親の兼家だけで、長男・次男の道隆・道兼は狩衣を着てます。直衣を着るのは身分が高い人物……ということで『源氏物語』では若紫が、直衣を着た人がいらしたのなら、それは父宮様では?と喜んで出てくる場面があります」 「帝がいるから内裏だとわかる場面で、実資が大きな柄がついてるのを着ていたけれども、あれは?」 「蔵人頭(くろうどのとう)だけは帝に許されて、あの色と柄を身に着けてるの」
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