韓国の戒厳令、尹大統領はなぜ突然「乱心」したのか。野党だけではない、北朝鮮とアメリカからの影響
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、突然「乱心」したのは11月3日のこと。ユン大統領は夜になって突然テレビ演説を行い、韓国で約50年ぶりとなる戒厳令を宣言した。その上で、韓国軍も戒厳令に従って国会で動きを見せるなどしたことで、韓国のみならず世界に激震が走った。 この混乱の裏では、一体何が起きていたのか。そして何よりも、ユン大統領の処遇だけでなく、韓国の混乱がどうなっていくのか、今後の動向を考察してみたい。 【写真を見る】突然「戒厳令」を出したユン・ソンニョル大統領
◆韓国の「戒厳令」とは?
そもそも韓国の戒厳令とは何か。戒厳令は、大統領が発する宣言の下に「国内の政治活動や報道を規制する」ものだ。政治活動全般やストライキなどを禁止し、民主主義を否定したり、フェイクニュースや虚偽の扇動を禁止したりする。さらに、報道・出版は戒厳司令部の統制下に置かれコントロールされる。 そもそも戒厳令とは国内が戦時など非常事態に陥っている状況で、強権的に政治と社会を大統領の統制下に置き、一時的に安定を図るというものだ。 となると問題は、韓国は戒厳令が必要なほど混乱していたのか、である。韓国では4月に総選挙が行われ、革新系の最大野党である「共に民主党」が過半数を大きく上回る議席を獲得。ユン大統領は政策を進められない状況になっていた。加えて、ファーストレディの金建希(キム・ゴンヒ)氏が株価操作に関与した疑惑や、補欠選挙の人選に不当な介入をした疑惑などがかけられて捜査対象にもなり、大統領への国民の不信感も高まっていた。そんなことから、支持率は20%前後と低迷していた。 要はユン政権は汚職など批判が次々と出て、政治も思うように進められず、完全なるレームダック(死に体)状態となっていた。
◆大統領として、今後の活動はもはや無謀か
そんな状態を逸するために、ユン大統領は戒厳令を発することを選んだのである。だがそのもくろみは、たったの6時間で全てが水泡に帰した。というのも、国会で過半数以上の議席を確保している野党「共に民主党」が主導して、戒厳令を解除する投票を敢行。集まった議員の全会一致で、直ちに大統領の宣言は無効になった。 「共に民主党」はこの戒厳令の発令が「違憲であり違法な戒厳令宣言」として弾劾訴追状を提出した。ユン政権を崩壊させるべくこのチャンスを逃すまいと迅速に行動している。もっとも、弾劾を成立させるには12月7日に議会で行われる投票で、議員の3分の2の賛成票が必要となる。まずはここが最も注目される重要なポイントとなるが、弾劾訴追案が可決する可能性は高い。 弾劾が可決されれば、大統領の職務は停止。首相が大統領代行となり、その後最長180日間で憲法裁判所が弾劾の妥当性の検証を行った上で、罷免されることになる。また「共に民主党」がユン大統領や、軍を国会に動員した元国防大臣など8人を内乱罪で刑事告発したことから、大統領への捜査が行われることになる。もはや大統領として、これまでのように活動できる可能性は低いと言えるだろう。