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90年代を生きるスケーター少年の青春映画『mid90s ミッドナインティーズ』

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Rolling Stone Japan

本日、9月4日より日本公開された、俳優ジョナ・ヒルの監督デビュー作『mid90s ミッドナインティーズ』。90年代を舞台にセックス、ドラッグ、スケーターカルチャーを通じて成長する少年の姿が描かれる。 写真:カート・コバーン、 フォトグラファーがフィルムに収めたその素顔 『mid90s ミッドナインティーズ』のどのシーンにも俳優ジョナ・ヒルは登場しない。それなのに、コメディタッチの感動的な同作のいたるところでヒルの存在が感じられる。自ら手がけた脚本とともに監督デビューを果たしたヒルは、語り手の主観よりも空気感、キャラクター、彼らの心の動きの片鱗を物語の推進力とすることで同作をヨーロッパのアート映画(たとえばフランソワ・トリュフォー監督の1959年の映画『大人は判ってくれない』など)のような、少年の成長を描いた物語に仕上げた。こうしたテクニックは、脚本の共同執筆者としてもヒルが関わっている青春コメディ映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)、あるいはコメディ・アクション映画『21ジャンプストリート』(2012)とその続編といったドタバタ物を期待するファンを失望させるかもしれない。だが、『マネーボール』(2011)と『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(2013)の両作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたヒルの俳優としてのおそるべき手腕を認める人は、ヒルが芸術家としてさらに成熟できることに気づいている。 笑いと感動が詰まった『mid90s ミッドナインティーズ』は、そんなヒルの可能性を証明している。物語の舞台は、ロックとヒップホップが主流のデジタル時代以前のアメリカ。ロサンゼルスに暮らす、繊細で孤独な13歳の問題児スティーヴィー(サニー・スリッチ)が危なっかしくもなんとか毎日を生きようとする描写は、荒削りでありながらもリアルに感じられる。スティーヴィーは兄イアン(ルーカス・ヘッジズが怖い兄を見事に演じている)から激しいいじめに遭っているが、パートタイムの売春婦として働くシングルマザーのダブニー(キャサリン・ウォーターストン)には隠している。ダブニーは、息子イアンとスティーヴィーと同じくらい不安定で問題を抱えた人物として描かれている。 スティーヴィーは、モーター・アベニューのスケートボード・ショップで出会った年上の少年たちのグループに救いを見出す。憧れの眼差しでスケーターたちを眺めるスティーヴィーは、骨折や転倒の危険を顧みずに自らもスケートボードにのめり込む。スティーヴィーにとってスケートボードは、いまよりも良い場所に連れて行ってくれる魔法の絨毯のような存在なのだ。それだけでなく、年上の少年たちと付き合うにつれてスティーヴィーはセックス、ドラッグ、ロックンロールを駆け足で学ぶ。スケーター少年のグループは、なかなかの強者揃いだ。ファックシットを演じたオーラン・プレナットの鮮やかな演技は必見。それにフォースグレード(ライダー・マクラフリン)とルーベン(ジオ・ガリシア)も忘れてはならない。だが、ぜひ注目してほしいのは、際立った存在感のナケル・スミス扮するグループ唯一の黒人少年レイだ。スミスはファッションブランドSupreme所属のプロのスケートボーダー兼モデルだが、その演技力はじつに素晴らしい。スティーヴィーとレイのシーンは、ほろりとした優しさで観る人を感動させる。 映画が終盤にさしかかるにつれ、ヒル監督はセンチメンタルな袋小路に入り込んでしまい、それが映画を若干脱線させる。だが、そこに行くまでの『mid90s ミッドナインティーズ』には、危険を冒しながらも、まるで人生のヘアピンカーブに立ち向かうことで生まれる楽しさと高揚感があふれている。スケートボードのシーンは最高だし(撮影監督クリストファー・ブローヴェルトの手腕に拍手)、スティーヴィーの母ダブニーとファックシットが繰り広げる壮絶な舌戦は爆笑必須だ。ダブニーは、汚い言葉を使うスリル中毒のジャンキーのスケーター少年たちと大事な息子が一緒にいるのが心配でたまらないのだ。ヒル監督は、どうしたら人々が自身の作品に夢中になるかをしっかり心得ているのだ。 『mid90s ミッドナインティーズ』 9月4日(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、他全国ロードショー Translated by Shoko Natori

Peter Travers

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