ふるさと納税「1万円」を「60円」と誤表示で寄付殺到も、法的には“不成立”…一般売買契約との決定的な違い【弁護士解説】
ふるさと納税と一般の売買契約の違い
こうしたミスによる“お買い得品”でも構わず、情報を拡散するSNSコミュニティーもあるといわれる中で、今回の南知多のケースは、約13時間も誤記入を放置。責任問題はどうなるのか。消費者トラブルにも詳しい杉山大介弁護士に聞いた。 「まず一般論で言うと、売買契約は双方の合意によって成立するという点から考えることになります。売主が○○円でXを売ると表示して、買主が『買います』と伝えれば、合意により売買契約は有効に成立します。 もっとも、今回はふるさと納税という寄付金に対して返礼品が生まれるという特別な制度下の話であって、売買契約ではありません」 杉山弁護士が続ける。 「ふるさと納税は、寄付金の一定割合以下の金額で返礼品を受け取れ、一定割合を超える返礼品を渡すことは制度上できません。そのため、60円の寄付金で何かを渡すことはできず、ふるさと納税という制度下でのやり取りであったことから、商品を引き渡す義務も生じていないと考えられます。 行政法規との関係での適法性と、私法上の契約の有効無効は全く同じには考えられないのですが、今回は一般企業と違って取り返しがきく理屈がそれなりにちゃんと立つので『良かったですね』と思います」 つまり、町が対応策として示した「対象の寄付をキャンセルしてもらい、申し込んだ人にお詫びの連絡を入れる」で、一定の責任を果たすことができるということだ。
一般的には「間違いだった」で済まない場合も多い
ふるさと納税ではそもそも、実質負担額として2000円の費用がかかる。自治体からの返礼品によって、それ以上のリターンがあるため、得する制度として定着している。今回のケースでは、そうした知識があれば、「60円」という表示も含め、「おかしい」と気づけたと考えられる。 とはいえ、今回のケースで1300人以上が「60円」に群がったように、世の中は世知辛い状況だ。南知多町は制度に救われた形といえるが、杉山弁護士は次のように注意を促す。 「法律家としてコメントできるとすれば、合意に基づく拘束力というのは民事的な関係における基本になることなので、『間違いだった』ではすまなくなる場合も一般的には多いことは肝に銘じておいた方がいいですね」
弁護士JP編集部