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加藤CDC前研究員「感染症が人類史を変えてきた、今回もまた」

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ニュースソクラ

【ニュースソクラ編集長インタビュー】『人類と感染症の歴史』の著者・加藤茂孝前CDC客員研究員に聞く(下)

 新型コロナウイルスの世界的な大流行で、生活や経済活動は激変している。国立感染症研究所のOBで米CDC(疾病予防管理センター)勤務の経験があり、『人類と感染症の歴史』(丸善出版)などの著書もある加藤茂孝氏に、新型コロナで混乱する当局と医療現場、さらに歴史的な意味を前回に続いて聞いた。(聞き手はニュースソクラ編集長、土屋直也) ーー新型コロナウイルスの感染が拡大するのか、収束へ向かうのか。今後のシナリオをどうお考えですか。  1月末にテレビに出演した時は二つのシナリオを語りました。ひとつはSARSのように半年ぐらいで終息するケース。二つ目は風邪のウイルスのように、来年以降も今年ほどではないにしろ、ある程度は感染者がでる共存型になっていく場合です。SARSやMERSと違って、地域が限定されない世界的な感染になってしまったので半年での終息というのは考えにくい状況だと思います。 ーースペイン風邪の場合は2年目の方が大規模になりました。来年以降も流行があるとすると、今以上のことが起こる可能性もあるのですか。  1918年ー1919年のスペイン風邪はウイルスが発見されていないころで、対策の立てようがなかったし、ワクチンはおろか、抗ウイルス薬もなかった。ワクチンも薬も最近20-30年で飛躍的に開発力がついていますから、スペイン風邪のようなことにはならないでしょう。もうひとつ言えることは、後にスペイン風邪で亡くなった方を解剖して調べてみると、8割のひとはウイルスでなく、後からかかった細菌性の肺炎で亡くなっている。細菌であれば、ペニシリンなど特効薬がいまではできているわけで、対応はできます。 ーーSARSやMRESは集団感染が確立したわけでもないのに、地域的な隔離策をしていたら終息しています。今回の新型コロナは世界に広がったという違いはあるとはいえ、SARSのように終息すると期待はできないのですか。  SARSは重症急性呼吸器症候群というのが正式な名称であるように、かかったひとは強い症状がでます。MERSもそうで、無症状のひとはほとんどいませんでした。死亡率はSARSで10%、MERSは35%と今回の新型コロナウイルスのCOVID-19が医療崩壊が起こっていない場合の2%程度よりかなり高い。死亡率だけみれば、COVID-19は相対的には怖いウイルスではないのですが、無症状の感染者が多いのです。ウイルス保有者全員を隔離しずらく社会的に感染が広がりやすいのです。つまり気が付かない間に感染が広がってしまうのです。 ーーCOVID-19の特徴としていったん陰性になった患者で再発している例が韓国などで報告され、WHOも認定しています。抗体ができないということになるのでしょうか。  私は鼻から検体をとったがそこは陰性になっていたが、体のほかの部分に残っていたウイルスが活性化し再び鼻から採れた可能性があると思っています。鼻では陰性であっても、血液や便を使ったPCR検査をすればそこでは陽性と出たのではないかと思っています。 ーーワクチンが早期にできる可能性は。  他の6種類のコロナウイルスのワクチンはいまだにありません。これは4つは風邪の症状に過ぎないし、SARS、MERSは流行が抑え込まれていましたから、予防としてのワクチンの需要がなかったのです。製薬会社には開発のインセンティブがなかったのです。今回のCOVID-19は来年以降も流行しかねないから、大変もうかるかもしれず、開発競争には拍車がかかるでしょう。  特に遺伝子工学の進展で、コロナ・ウイルスの突起のように見える部分に対応するRNAを使用する方法などで開発期間を非常に短縮できるようです。普通のワクチンなら動物実験、人への治験と丁寧に副作用の検証などもしなければならないから、承認までには2-3年はすぐかかってしまうのですが、とにかく早く作れという政治判断からこうした丁寧な検証を吹っ飛ばすなら、来年ぐらいにできている可能性はないわけではありませんが、健康被害を防ぐ観点重視から急ぐのは難しいでしょう。英国では秋には臨床試験が始まるとの報道もあります。 ーー治療薬としてアビガン、レムイデシビルなどすでにいくつか期待できそうなものが取りざたされていますが。  アビガンには期待しています。ウイルス遺伝子RNAの複製を直接抑える作用があるからです。胎児に影響があるというので妊婦には使えないが、それ以外の安全性は保証されているのだから、妊婦を避け患者の同意の下で試したらいい。臨床試験の症例数が増えて試験結果が出るのを待っています。 ーー新型コロナウイルスへの感染しているかどうかを調べるPCR検査が日本は極端に少ないですね。  検査の可否判断を保健所と帰国者・接触者外来に集中させていたことで、検査数が極端に少ないのです。検査会社はまだいくらでも検査をする余力はあるといっていますから、検査数を絞り込んでいるのが原因です。開業医が直接、検査を指示し、ドライブスルーなど屋外で検体採取を集中実施して検体を検査会社などへ直接送って試験するなどの動きが各地で出てきていますが、まだまだ浸透不足で、医療現場は疲弊しています。保健所を通さないシステムにすべきです。  血液検査による抗体検査も実施すると報道されていますが、どんどんやるべきですね。地域や企業などに絞ってサンプル調査をすると、どのくらい感染が広がっているのか、抗体を持っているひとがどのくらいかわかります。いまは推定数字を使っている感染者が何人の人にうつしているか「再生産数」も実際どうなのかわかります。それらのデータは外出自粛などの対策をどう進めるべきかの判断の大きな材料になります。 ーー感染症の大流行は世界史を変えてきているのですか。  14世紀のペストの大流行に当時、医療も担っていたカトリック教会は無力でした。教会の権威失墜が宗教改革につながっていきます。ペストにより欧州人口が3分の1から半分減り、農奴制が崩れ、賃金小作農に代わることで社会構造も変化していきました。中世が終わったのはペスト流行がきっかけになっています。南米文明の消失など感染症が世界史に与えた影響は数知れません。 ーー今回の新型コロナウイルスの流行も人類史を変えると思いますか。  外出自粛や都市封鎖でテレワークが広がった。オンライン会議がまたたくまに広がり、オンラインでの診療、面接、授業も広がるでしょう。工場はさらに自動化が進み、押印も電子署名に変わっていくでしょう。  一方で、国境閉鎖、物資の国内優先使用などにみられる自国優先主義が広がりかねません。本来は、世界的なパンデミックは世界が協力して英知や技術を結集しなければならないのですが、反対の方向に向かってしまいかねない懸念があります。 ■加藤茂孝(かとうしげたか)1942年生まれ、三重県出身。東京大学理学部卒業、理学博士。国立感染症研究所室長、米国疾病対策センター(CDC)客員研究員、理化学研究所チームリーダーを歴任し、現在は株式会社保健科学研究所学術顧問。  専門はウイルス学、特に風疹ウイルス、麻疹・風疹ワクチンである。妊娠中の胎児の風疹感染を風疹ウイルス遺伝子で検査する方法を開発。著書に『人類と感染症の歴史―未知なる恐怖を超えて』(丸善出版、2013年)、『続・人類と感染症の歴史―新たな恐怖に備える』(丸善出版、2018年)がある。 ■土屋 直也(ニュースソクラ編集長) 日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

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