「色んなカタチで歌が届けられる」石川さゆりの大きな発見とは:インタビュー
歌手の石川さゆりが1月27日に、通算127枚目となる両A面シングル「なでしこで、候う/何処(いずこ)へ」をリリースした。作詞に阿木燿子、作曲に杉本眞人、編曲に坂本昌之という布陣で制作された同曲は、春を感じさせるサウンドに女性の気持ちを語りかけるように歌い上げた1曲。カップリングには6月に公開の役所広司が主演する映画『峠 最後のサムライ』主題歌「何処へ」を収録。インタビューでは、無観客という紅白史上初となった『第71回NHK紅白歌合戦』に出演し、どのようなことを感じたのか。石川さゆりが明智光秀の母親・牧役として出演した大河ドラマ『麒麟がくる』での思い出、昨年12月に他界したなかにし礼さんとのエピソードなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】
令和の『天城越え』と感じた瑛人の「香水」
――昨年末に行われた『第71回NHK紅白歌合戦』での「天城越え」のパフォーマンス、素晴らしかったです。 ありがとうございます。無観客という新しい形は43回、紅白歌合戦に出演させて頂いて初めてでした。お客さまが目の前にいらっしゃらない寂しさはありましたが、自由度としてはみなさんも広がったんだと思います。制限がある中でも面白いことができる気付き、発見がありました。 ――紅白で話題になったYOASOBIやNiziU、瑛人さんなどの方々は石川さんにはどのように見えていましたか。 私がデビューした頃と今とでは、歌謡曲が生活の中で聴こえる幅も深さも違うように感じています。瑛人さんの「香水」を聴いた時に、「令和の『天城越え』なんだ」と思いました。もう忘れたいけど香水の匂いが思い出す香りの記憶、それは「天城越え」と一緒なんじゃないかと。それが今の彼らの表現になったという風に感じました。この先、彼らが大きな会場でも今の純粋な気持ちを持ち続けて、どのようなエンターテインメントを作っていけるのかとても楽しみです。新しいエンターテインメントを作り始めた皆さんを、私も音楽仲間として応援したいです。 ――石川さんにとって昨年最も大きかった気付きは? 色々なカタチで歌が届けられるということです。おうちにいなければいけない状況でも、歌をどうにか届けられないものかと思い、それでYouTubeで届けようという事になったんです。あまり大人数が集まってはいけないということで、最初は楽器パートごとにリモートでつなげて配信をしてましたが、そのうちピアノ一人、ギター一人、チェロ一人という少人数であれば、私の音楽室から皆さんに配信ができるとなって。それは私が今まで歌ってきた道にはなかった皆さんへの“歌届け”だったんですが、すごく面白く大きな発見でもありました。 ――ちなみに石川さんはYouTubeには以前から興味があったのでしょうか。 昔のものも観られますし、何でも観ます。ずっと動画を流しているとたまにとんでもないところに飛んでいっちゃうんです。またそれを観るうちに「こっちは何かしら?」って、自分の気持ちの流れのままに、1回観たものにもう戻れなくなったりして(笑)。色んなものを観て新しい世界の扉を開いたみたいな感じもあります。 ――最近観た印象的な動画はありましたか。 水曜日のカンパネラの「桃太郎」です。大好き! ステージも観てみたいなって(笑)。 ――ステージといえば有観客のコンサートも開始されました。 「お客様は50%までで、まだ大勢のお客様はお迎えできない」とのことでしたので、昨年の春頃か らやり始めていたYouTubeでのアコースティック編成を基にステージを組み立てることにしました。「天城越え」をピアノとチェロだけで歌ってみたり、オーケストレーションされた楽曲をたった1本の楽器で歌えるなど、アコースティックというのは違った聴こえ方がするし、ステージも密にならないし面白いなって。不自由の中で今までやったことのないこと、新しい自由を発見できたのが去年でした。 ――大勢のお客さんと対面するということは凄くエネルギーが出るものなのでしょうか。 それはむしろ、歌うという事と、聴いていただくという事と、もう一つ、皆さんからエネルギーをいただくという事だと思います。配信ライブでも、不思議な、目に見えないエネルギーが立ち上がってくるんです。それをあらためて昨年は感じました。