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「変調」ソフトバンク(下):辞めるに辞められない、いまだ孫正義個人商店

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nippon.com

後藤 逸郎

ソフトバンクグループの威信の源泉となっているアリババ株の巨額の含み益は米中対立という地政学リスクを抱えている。中国企業の米株式市場からの締め出しをも画策する米国の強硬策は、アリババ株頼みのソフトバンクにとって大きな経営リスクとなりかねない。また、巧妙な節税手法にも税務当局の「包囲網」が敷かれている。

巧妙な節税手法に対する「包囲網」

外部環境の変化も、ソフトバンクグループ(以下、SBG)の経営に影を落としている。 政府は今年度の税制改正で、法人税の徴収を強化した。多額の利益を上げながら、海外の子会社の株式を使うことで赤字決算とし、納税額を減らす節税手法の穴をふさいだ。 この改正のきっかけを作ったのが、他ならぬSBGが2016年に約3兆3000億円で買収した英半導体設計会社アーム・ホールディングスを巡る会計処理だった。 アーム・ホールディングスはスマートフォンやゲーム機などの中央演算装置(CPU)の設計を行う会社を傘下に置き、モバイル向け市場で圧倒的なシェアを持っている有力企業だ。SBGは株式市場価格の4割増しで全株を取得した。有価証券報告書によると、無形資産のテクノロジー(技術)や顧客基盤、商標権、その他資産および負債の資産価値は約7000億円で、残る2兆6000億円余りをSBGは「のれん代」として計上した。 「のれん代」はいわば見かけ上の資産で、日本の会計基準では一定期間をかけて減損処理していく。だが、SBGが採用する国際会計基準(IFRS)では、経営に影響が及ぶような事態でなければ、減損処理しなくてよい。 SBGはアーム買収後の2018年3月~19年3月の決算期に、持ち株会社であるアーム・ホールディングスが保有する子会社で半導体設計の実務を行うアーム・リミテッド株の多くを配当として受け取った。日本の税制上、海外子会社株の現物配当はほぼ無課税となっている。

アームを巡る複雑な会計処理のカラクリ

並行してSBGはアーム・ホールディングス株を、傘下の投資会社ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下、ビジョン・ファンド)に現物出資した。 実務を行うアーム・リミテッド株を失ったアーム・ホールディングス株は買収時の簿価より資産価値が減ることになり、この現物出資はSBGの損失として計上された。この二つの会計処理により、2期合算の連結営業利益が約3兆6000億円にのぼるSBGが単体で払った法人税は計1000万円だった。 企業の社会的責任の観点からは非難を浴びてもおかしくない行為だろう。SBG内で株のやりとりをするだけで、税金を払わなくていいのだから。だが、借金をテコに投資を繰り返すSBGと株主にとっては、キャッシュの社外流出を防ぐ合法的手法だ。日本政府は今年度の税制改正を待たなければ、子会社株を使った節税を防ぐことは出来なかった。 一方、SBGの一連の行為を財務処理の観点からみると、錬金術のような数字が現れる。有価証券報告書によると、買収時点のアーム・ホールディングスは、無形資産がテクノロジー5376億円、顧客基盤1486億円、商標権59億円の無形資産など、「のれん代」が2兆6509億円となっている。 アーム・ホールディングスはその後、アーム・リミテッド株の大半がSBGに移ったため、企業価値が減損したと税務処理されている。SBGは18年3月期の有価証券報告書で、セグメント情報のアームを「アーム・リミテッド」に変更した。そして、アームの「のれん代」を「ポンド高」を理由に、1600億円余り多い2兆8607億円とした。無形資産の減価償却を含めても、みかけの資産は買収時とほとんど変えなかった。 税務と財務処理の違いと言ってしまえばそれまでだが、いいとこ取りの会計処理が腑に落ちない読者も少なくないだろう(東京国税局はSBGがアーム社株の損失を18年3月期に計上することを認めず、約4200億円の申告漏れを指摘し、SBGは修正申告を行った)。 SBG広報は「個別の取引についてはコメントを控えます。アームに関しては、当社グループの海外事業における最適な資本関係を実現するため、2018年3月期、アームグループにおいて資本関係の再編が行われました。当社としても、今後の海外事業の発展に寄与する合理的な再編であると判断し、承認いたしました」としている。

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