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巨匠に愛された女子高生のひと夏の成長

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Book Bang

『少女』の作者アンヌ・ヴィアゼムスキーの母方の祖父はノーベル文学賞作家、フランソワ・モーリヤック。だが自分は「不器用で無教養」、容姿もぱっとしないと17歳のアンヌはコンプレックスの塊だった。  そんな彼女が仏映画界の巨匠ロベール・ブレッソン監督のおめがねに適い、新作の主演に抜擢された。プロの俳優を使わず、恐ろしく純度の高い作風で知られるブレッソンは、当時63歳。うぶな女子高生との間に不思議な関係が結ばれていく。出会ってすぐ、自分の前作がかかっている映画館にアンヌを連れて行った監督は、上映中、彼女の手を握りしめながら熱心に解説し続ける。周りの客が苦情をいうと、監督は逆に叱りつけた。  自己の世界に没入する巨匠に常識は通じない。他のスタッフ、キャストは眼中になく、撮影中はアンヌと一つ屋根の下で暮らし、抱擁やキスを迫る。  今なら#MeToo運動で槍玉にあげられかねない。だがキスを拒まれてくしゅんとなる監督は子供っぽく純真でもある。アンヌは監督に魅されながらもうまくあしらう術を身につける。少女にとって撮影の夏は成長の夏だった。監督は彼女への愛情を映画に注ぎ込み『バルタザールどこへ行く』の無垢にして妖艶な少女像を創造。名作の誕生だ。  その後二人が共に映画を作ることは二度となかった。アンヌは40年の歳月を経て思い出を小説に綴った。大切な日々の細部は彼女の心のフィルムにしっかり写し取られていたのである。 [レビュアー]野崎歓(仏文学者・東京大学教授) 新潮社 週刊新潮 2020年5月21日夏端月増大号 掲載

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