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史上最遠からとらえた地球の写真「ペイル・ブルー・ドット」撮影秘話

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ナショナル ジオグラフィック日本版

撮影から30年、単なる「点」の写真が愛され続ける理由

 今から30年前、NASAの探査機ボイジャー1号は太陽系の惑星探査を終えて星間空間に飛び出そうとしていた。海王星の軌道より15億キロメートルも離れたところまで来たとき、ボイジャーは後ろを振り返った。宇宙の星々を背景に太陽系の惑星が並んでいた。リングをもつ土星、巨大な木星、白く明るく輝く金星、そして、意外なほど淡く青い、みずみずしい地球。 ギャラリー:宇宙から見た美しい地球 写真11点  ボイジャーは1990年のバレンタインデーに太陽系の家族写真を順々に撮影していった。科学者カール・セーガンが最初に撮影を提案したのはその10年近く前だったが、画像を撮影しても科学的な価値がないことなどを理由に何度も却下されていた。しかし、ボイジャーが太陽系の端に近づく頃には、搭載したカメラはいつ壊れるかわからない状態になっていた。地球から約60億キロメートルの彼方から、故郷の星を振り返る最後のチャンスだった。 「本当に最後のチャンスでした」と、写真撮影計画に携わった米惑星科学研究所のキャンディー・ハンセン氏は振り返る(彼女は、今はNASAの木星探査機ジュノーに搭載されたカメラJunoCamのチームのメンバーとして活躍している。JunoCamが送ってくる木星の写真は、この世のものとは思えないほど壮麗だ)。  ハンセン氏は当時、NASAのジェット推進研究所(JPL)の画像チームの実験担当者だった。彼女の仕事には、ボイジャーによる観測を計画し、得られた画像をチェックしてすべてが計画どおりにいったかを確認することも含まれていたため、人類で最初に「ペイル・ブルー・ドット(淡く青い点)」の写真を見ることになった。 「私たちの小さな探査機があんなに遠くまで行って、これが私たちの故郷の写真で、そして、この小さな明るい点のどこかで私はデスクに向かっているのだという思いに圧倒されました」  地球の写真を撮影してから34分後、ボイジャーのカメラは永遠に稼働を停止した。あまりにも有名になったこの写真の地球は、散乱する太陽の光に浮かぶ針穴のような光の点にすぎず、宇宙の中では取るに足りない存在のように見える。しかし、この写真は正反対の反応を引き起こした。地球の大切さ、はかなさ、かけがえのなさを人々に痛感させたのだ。  セーガンはのちにその著書『惑星へ』の中で、「それはここだ。私たちの故郷だ。私たちだ。あなたが愛する人、知っている人、聞いたことがある人、これまでに存在したすべての人間が、太陽の光の中に浮かぶ塵のかけらの上で生きてきたのだ」と書いた。「無限に広がる宇宙の中で、私たちはこんなにも小さい。私たちを私たち自身から救ってくれる人がどこかから来てくれるようには思えない」  ナショナル ジオグラフィックはハンセン氏に、「ペイル・ブルー・ドット」の写真は当時の彼女にとってどんなもので、今はどんなものであるのか、そして、オリジナル写真が今はどこにあるかを尋ねた(長さを整え、内容が明確になるように、インタビューは編集してある)。 *  *  * ――あなたが「ペイル・ブルー・ドット」の写真を世界で最初に見ることになった経緯を教えてください。  私は1977年にボイジャーの画像チームに参加しました。最初は、実験担当者のアシスタントのそのまたアシスタントという立場でした。画像チームの科学者は全米に散らばっていたので、JPLの実験担当者が彼らの手足となって実験をしたのです。  私の主な仕事は、ボイジャーの各惑星へのフライバイ(接近通過)における観測とカメラ操作の計画を立てることでした。私は当初からこの写真撮影についてカールの手伝いをしていました。カールが実験を思い描き、私がJPLで「こういう要望が出ています。こういう観測をしたいと思います」という書類を作って、会議に出て、実際に手足を動かすのです。  私たちの提案は何度も却下されました。ですが、1989年にこれが本当に最後のチャンスであることが明らかになり、許可が出ました。ですから私は計画から写真を見るところまで、この計画にずっと関わっていました。 ――観測はどのように計画したのですか?  観測手順を計画する担当者と私で、何ができるかを検討しました。カールの希望は、多数の写真をモザイクに継ぎ合わせて全天の写真にし、星々を背景にした惑星の姿を見せることでしたが、データを記録するテープレコーダーの容量が足りませんでした。そこで、いくつかの星と一緒に、それぞれの惑星の写真をカラーで撮影することにしたのです。私たちはすべての惑星を広角写真でつないで、太陽の写真も撮りました。  そしてついに、写真が地上に届きはじめました。 ――画像をチェックしていたあなたは観測がうまくいったことを確認したわけですね?  そうです。テープレコーダーは最初に入ったデータを最初に伝えます。私たちは海王星から撮りはじめて太陽系の内側に進めていったので、海王星から探しはじめました。海王星は…よし、あった。次は天王星…よし、あった。次は土星…次は木星というようにね。これらは比較的大きな惑星なので、比較的大きな点でした。  どの写真でもしみやほこりはすぐにわかったので、惑星の写真を見ればすぐに「しみ、しみ、ほこり、あ、これは海王星」と見分けることができました。私は整然と仕事を進めていきました。  そして、地球が写っているはずの写真の番になったのですが、最初は見つかりませんでした。 ――困りましたね。  ほかの2つのフィルターの写真も確認しました(訳注:ボイジャーは3色のカラーフィルターを使用していた)。心の中では、「どうして地球を撮りそこなったのだろう? ほかの惑星は撮れたのに。本来の目標は地球を撮影することだったのに!」と叫んでいました。恐怖とパニックの瞬間でした。何年もかかってつかんだチャンスを台無しにしてしまったと思ったのです。  私はその場で考え込みました。どうしよう? なんと言えばいい? その時ふと、散乱光の中に、ほこりかしみかわからない明るい点があることに気づきました。ほかの2つのフィルターの写真も確認してみると、3枚の写真すべてに写っていました。画像処理の過程で発生した手違いでもありませんでした。 ――それが地球だったと。  私はただそこに座っていました。胸がいっぱいだったのです。私たちの小さな探査機があんなに遠くまで行って、これが私たちの故郷の写真で、そして、この小さな明るい点のどこかで私はデスクに向かっているのだという思いに圧倒されました。散乱する太陽の光の中にあったこともドラマチックでした。  理論的に言えば、それは光の散乱にすぎません。頭ではわかっていました。けれども心は違いました。特別なことのように思われたのです。太陽が私たちを照らしている! 落ち着きを取り戻した私は、今回の結果について知らせるため、電話をかけはじめました。写真は3色のフィルターのすべてで、よく写っていました。その後、写真は大きな話題になりました。 ――この写真が大きな影響を及ぼしうるものであることを当初から感じていましたか?  はい。ずっとそう思っていました。私は観測の成果を売り込まなければならないからです。写真の意味については考えていました。けれども、考えることと、心で何かを感じることは別物です。  私は今、この写真が時代を超えて意味を持つものであることを理解しています。私たちが写真を撮影した1990年はまだ冷戦の最中でした。ソ連と米国はお互いに核兵器を突きつけあっていました。ですから当時のメッセージは「核兵器を撃ち合って故郷の惑星を台無しにするようなことはやめよう」でした。  今日のメッセージは「気候変動を招いて故郷の惑星を台無しにするようなことはやめよう」です。メッセージの本質は変わっていません。その点で、この写真は時代を超えています。私たちの故郷は1つしかありません。いろいろ言われていますが、火星は人類が住むのに適していません。月もです。故郷の星は1つしかなく、大切にしなければなりません。 ――誰もが概念としてはそのことを知っていると思いますが、有名な「地球の出(Earthrise)」の写真もそうであるように、宇宙から撮影した地球の写真を見ることではじめて、心から実感できるような気がします。  そのとおりですね。「地球の出」は、人類が自分を理解する上で非常に重要な写真です。 ――今でも「ペイル・ブルー・ドット」の写真を見るときには最初に見たときのような気持ちになりますか?  はい。今でも背筋がゾクゾクします。1枚の写真は1000の言葉に値しますが、あの写真は100万語に値するかもしれません。それだけの写真です。  私たちはボイジャーが撮影した写真をJPLのフォン・カルマン講堂の壁一面に貼りました。広角写真をつなぎ合わせたものと、それぞれの惑星の写真を並べただけのものです。この写真を管理している人があるとき教えてくれたのですが、地球の写真はときどき張り替えているそうです。人々が近寄って、写真に触ってしまうので。すてきでしょう? これが私たちが住んでいるところ、って。 ――写真は何回ぐらい張り替えられたのでしょうね?  わかりません。わかったら面白いでしょうね。 ――オリジナルの写真はどこにあるのでしょうね?  それについてはわかっています。私のクローゼットの中の箱にしまってあります。 ――本当に!?  本当です。もちろんデジタルデータではありません。あれはアーカイブにあります。けれども私たちが貼った写真のオリジナルは全部私のクローゼットの中の箱に入っていますよ。

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子

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