【不動産経営】アパート住人が家賃値上げに応じてくれない場合、退去してもらうことはできるのか? トラブル解決のための法的手続きを解説
物価高の影響もあり、アパートやマンションの家賃が値上がりするケースも増えている。では、もしも居住者が家賃の値上がりを拒否した場合、オーナーが退去させることはできるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】 アパートの経営をしていますが、先日、家賃を値上げしました。ところが、8年ほど住んでいる借家人のAさんは、何度言っても値上げ前の家賃しか振り込んでくれません。 そもそもうちの家賃は相場よりも安いので、値上げも妥当だと思います。Aさんに値上げを承知してもらう、または退去してもらうにはどうしたらよいですか。(埼玉県・68才女性・自営業) 【回答】 アパートなどの借家契約は借地借家法が適用されます。その32条では、「契約で一定の期間、家賃を増額しない旨の特約がある場合を除いて、一旦合意した家賃の額は、次の状況になった場合、貸主も借主も、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求できる」とされています。文中の「次の状況」には以下の4つがあります。 【1】土地もしくは建物に対する租税その他の負担が増減した場合 【2】土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下した場合 【3】その他の経済事情が変動した場合 【4】近傍同種の建物の借賃に比較して、不相当となったとき Aさんは「何度言っても対応してくれない」とのことですが、最終的にはその対応を裁判所で決めてもらうことができます。 借家人が増額を受け入れないときには、まず簡易裁判所に調停を申し立て、調停委員を交えて話し合います。多くの場合、不動産鑑定士が調停委員になりますので、説得力のある調整が期待できます。
しかし、調停がまとまらなければ、地方裁判所に賃料増額請求の裁判を提起する必要があります。裁判所は【1】~【4】の事情を判断して、増額請求した時点の適正な賃料を決定します。その場合、調停委員会の意見を尊重するのが普通です。 裁判所が認めた額が従来の賃料より多くても、借主がそれまで従来の額を支払っていれば、家賃の不払いにはなりませんから、貸主は契約を解除できません。つまり、Aさんの退去要求は無理です。 しかし、借主は増額請求の時点以後の差額と、その差額に年10%の利息をつけて支払う義務が生じます。 もしこれまで何回も値上げをしたことがあれば、その値上げを請求した時点ごとに相当な賃料の額が検討されることになります。 重要なのは、いくらの賃料増額請求をいつしたか証拠を残すことです。そのため、増額請求する場合は内容証明郵便などで行うのが一般的です。 このままAさんが値上げに応じないようなら、一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※女性セブン2024年12月5日号