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大内裏は荒廃し、全く機能していなかった?室町時代の京都についての「常識」を覆す―久水 俊和『中世天皇家の作法と律令制の残像』自著解説

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およそ600年前の室町時代、京都。その「常識」を覆し、荒廃する大内裏の官庁街であっても、国家的機能を十分に果たしていたことを明らかに。各種文献・考古学の成果を存分に反映した最新の研究書を、著者自らの書き下ろしで解説。 ◆臭い漂う中世の内野と古池、この荒れ果てた地域には一体何があったのだろうか 今からおよそ600年前の室町時代のことである。中世の洛中のはずれの荒れ地に散在する畑。たい肥の臭いが漂い、ある時は馬場として用いられ、ある時は死人がうち捨てられていた。庶民にとっては不潔ともいえる地域である。洛中をめぐる戦乱時には陣が構えられ、戦場と化すことさえもあった。ここはかつて「内野(うちの)」と呼ばれる地域だった。 内野の南東には、隣接して一つの古池があった。洛中側からは高い築地で視界がさえぎられており、周辺には賤民(せんみん-差別された人々)や乞食が住み着き、汚物が捨て置かれていた。ここもまた庶民にとっては、汚れた地だった。 中世の内野と古池――この荒れ果てた地域には、一体何があったのだろうか。 ◇内野の正体 実はこの内野の正体は、かつて平安京の北辺中央に位置した大内裏(だいだいり-平安京の宮城(きゅうじょう))跡であり、古池は禁苑(きんえん-宮城の庭園)や祈雨祈祷(きうきとう)の道場として機能した神泉苑(しんせんえん)だった。 大内裏といえば、天皇の住居である内裏を中心とし、国の政務や儀式の舞台である大極殿(だいごくでん-大内裏の中心をなす正殿)をはじめとした国の官庁が林立する、今でいえば霞ヶ関のような国家の中核であった。また、内野の南東にある神泉苑も、ドブ池のような古池だが、京都発祥の湧泉であり、諸国を干ばつから救う龍王がたたずむ霊泉であった。それが、なぜこのような惨めな姿へと変わり果ててしまったのであろうか。 一言でその理由を述べると、大内裏はランニングコストが膨大であり、度重なる火災のあと、再建することができなかったのである。もとより、皇居は巨大な大内裏から洛中の一町四方(約11,900㎡)程度のコンパクトな里内裏(さとだいり-仮の御所)へと移転していた。 ◇荒廃しながらも機能する官庁街 里内裏が常在化し皇居が大内裏外へ飛び出すと、それに伴い各官庁の機能はそれぞれの各担当役人の下へと散在し、大内裏内に建ち並んでいた官庁街も徐々に荒廃していった。ついには荒れ野と化し内野と称されるようになった。しかし、荒野化しても大内裏としての機能が完全に消滅した訳ではなかった。室町時代でも、神祇官(じんぎかん)・太政官庁(だいじょうかんちょう)・真言院(しんごんいん)といった官庁や道場がまだ残っており、これらの建物は天皇が行うべき国家的祭祀や、即位式などのハレの儀式、玉体護持(ぎょくたいごじ-天皇の無病息災)・国利民福(こくりみんぷく-国家の利益と国民の幸福)の祈祷道場として国家的機能を十二分に果たしていたのである。 また、大内裏南東隣の神泉苑も、汚れきってはいるものの、いぜんとして聖なる泉とされていた。朝廷と二人三脚で国政を運営している武家権力―鎌倉・室町幕府も、内野と神泉苑は、宮城・禁苑として鎮護されるべき聖域という認識を持っていた。 本書『中世天皇家の作法と律令制の残像』では、かつて平安京大内裏の官庁街・庭園をなした内野・神泉苑について具体的・立体的に復元する。当然、学術書であるから、専門外の方には少々敷居が高いかもしれないが、図版を多数用い、わかりやすい記述を心掛けた。また、少しでも導入しやすくするための当レビューのような、内容を砕いたコラムも四本掲載している。 600年前の平安京の姿――中世の大内裏(実際は跡だが)を知るのにふさわしい一冊である。ぜひご一読いただきたい。 [書き手]久水俊和(ひさみずとしかず 明治大学文学部助教) 1973年北海道生まれ。明治大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。明治大学文学部助手、宮内庁書陵部図書課職員、明治大学文学部兼任講師を経て、現在、明治大学文学部助教。 〔主な著作・学術論文〕 『中世天皇家の作法と律令制の残像』(単著、八木書店、2020年) 『室町期の朝廷公事と公武関係』(単著、岩田書院、2011年) 『室町・戦国 天皇列伝』(共編、戎光祥出版、2020年) 『中世天皇葬礼史』(単著、戎光祥出版、2020年) [書籍情報]『中世天皇家の作法と律令制の残像』 著者:久水 俊和 / 出版社:八木書店 / 発売日:2020年06月26日 / ISBN:4840622396 ALL REVIEWS 2020年7月20日掲載

八木書店

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