“むっつり右門”高木守道さんが笑った日 指揮官はライトスタンド前で手を振った
◇この一枚の裏側に 写真には、カメラマンだけが知る「ドラマ」がある。第5回は1月に亡くなった高木守道さんの8年前の写真。「むっつり右門」の微笑を収めた一枚がいかに珍しいか。撮影者は知っている。 杉良太郎演じる近藤右門は、口数少ない元祖・笑わない男。1980年代に放映された「右門捕物帖」から、高木守道さんは「むっつり右門」と呼ばれたそうだ。「そうだ」と書くのは、高木さんがそう呼ばれるところを、若い報道陣は見たことがない。ましてや呼べるはずもない。 しかし、第2次政権時に高木さんを追い続けた隈崎稔樹(なるき)カメラマンは「むっつり右門」を実感する。2012年末。元日紙面取材のために、名古屋市内の高木さん宅を訪れた。たこやミニ門松など小道具を使うのが定番。前年の紙面を参考に「気軽に応じてくれるものだと思っていました」。ところが、小道具は持ってもらえず、笑ってもいない…。 だからこそ、この写真の微笑には価値がある。サヨナラ勝ちでナゴヤドーム14連勝を飾った12年7月8日。「これ、ライトスタンド前なんですよ。そこまで行って、手を振っている。本当に珍しいことです」。隈崎カメラマンは、ある時期から試合前練習で二塁付近に立つ時間が増えたことにも気付いていた。「周平が1軍にいるようになったころからなんです」。近くで守備を確かめたかったのだろう。 10日はファンを愛し、野球を愛したミスタードラゴンズの追悼試合。この一枚はナゴヤドームの特設遥拝(ようはい)所に飾られている。(渋谷真)
中日スポーツ