シニアがはまる至福のボランティア/おもちゃドクターという生き方
ノートにびっしり修理記録 先輩から学ぶ新米ドクター
おもちゃ病院には、少数ながら女性もいる。 阿部香織さん(45)は昨年5月にドクターになった。飲食店に勤めており、まったくの初心者だが、小学生の頃から音が出るようなおもちゃは大好き。県の広報誌で木村さんの活動を知り、興味を持った。いつも持参しているA4サイズのノートには修理記録や電動おもちゃの回路図などがびっしりと書いてある。 「木村さんや先輩ドクターは、何度きいても丁寧に教えてくれます。みなさん経験豊富でお話するとおもしろいです。素敵な人ばかりです」
家族の服は手づくり 裁縫のスキルを生かす整形外科医
ぬいぐるみが持ち込まれたときは、裁縫の得意な整形外科の牧野契子さん(69)の出番だ。セーターやワンピース、カーディガン、ズボンと家族の服は何でも手作りしてきた。 「今日はどんなおもちゃがくるかなとワクワクしますよ」 ぬいぐるみは電動が多く、外科とのコミュニケーションが欠かせない。足が折れた犬の場合、まず温めたコテを患部にあてて接着のノリを溶かす。次に骨組みの機械から糸をほどきながら布地をはがす。治した機械に布をかぶせて縫い合わせるときも、外科と協力しながらだ。 「元の姿に戻ったとき、やったーという達成感があります」
生きがいであり、「老化防止の特効薬」
おもちゃ修理のボランティア活動は各地で行われている。 宮城県仙台市の市来歳世彦(さよひこ)さん(75)は、「おもちゃ病院ころころ」のおもちゃドクターだ。テレビ局を定年退職後、市のおもちゃドクター養成講座にふた月通い、2009年の春、受講した仲間とおもちゃ病院を立ち上げた。 2011年の東日本大震災では、津波で海水に浸かって錆びたおもちゃを含めて、壊れたおもちゃがたくさん持ち込まれた。電線がボロボロになったおもちゃは、配線を張り替え、端子を磨いて治した。時間のかかる治療だった。 「つねに創意工夫が必要で、おもちゃの持ち主と会話をしながら治していきます。おもちゃ修理は老化防止の特効薬です。治ったおもちゃを受け取る子どもや親が喜ぶ顔が、何よりの報酬です」 市来さんは昨年7月、『生きがいのボランティア おもちゃドクター』(梟社)を出版した。おもちゃの修理事例と、道具や基礎知識を写真付きで解説している。