親に感謝しろ…恩着せがましい母親との確執でうつ病の女性 新居購入の支援申し出で限界【東尋坊の現場から】
この世には「恩着せ」という文化があります。しかしこの行為が行き過ぎると相手の手足を縛ることになり生活が窮屈になって自殺に追い込まれてしまうことがあります。 ⇒【写真】元警官が代表を務める東尋坊の「相談所」 今年4月上旬、桜も満開を迎えた春うららかな日。午後3時ごろ、北陸地方に住む30代女性が東尋坊(福井県坂井市)の松林の中にある日本海が一望できるベンチに、独り寂しく座って考えごとをしていました。晴れ渡った空とは対照的に陰鬱としたその姿を目にした、私たち「心に響く文集・編集局」の女性スタッフが声を掛けました。 「今日は、天気が良くて気持ちも良いですね…」と顔を覗き込むと、女性は泣き顔になっていました。「何か悩んで来たのですか…?」 と問いかけると、小さな声で答えを返しました。「もう良いんです。覚悟は出来ています」 その覚悟は自らの命を絶つことではないかと感じたスタッフは「私たちに話を聞かせてもらえませんか? あなたが抱えている悩み事はきっと解決できると思いますので話を聞かせてくれませんか…」と私たちの相談所へ案内。茂幸雄代表を加え、女性スタッフ2人の計3人で話を聴きました。 東尋坊に来ることになったいきさつを女性は語り始めました。「今朝、旦那から最悪な目覚めになった…と怒鳴られ、口論になりました。私は自分が抱えているうつ病から苦しくなり、自殺をするために東尋坊へ来てしまいました」と言うのです。女性は夫と確執を抱えていました。今年2月に自宅を新築したそうなのですが、元々、女性は大反対でした。 それは新築すると家庭の誰かが不幸になるとの迷信を信じていたからでした。というのも、女性が大好きな88歳になる祖父が心臓病を患っており余命幾ばくかの状態で入院しており、コロナ禍のために面会も出来ない状態。幼少の頃から一番可愛がってもらったのに、何のお世話もできないことを毎日悔やんでいました。 しかし旦那は何も関せずの状態で、一方的に新築することを決意し家を建ててしまったのです。そのことについて、女性の実家が幾ばくかのお金を支援したいと言ってきていましたが、強く拒否。しかし旦那は両親と話し合ってカーポートの資金を出してもらってしまったのです。 実家の支援を得て新居を建てた―。はたから見れば、さほど大きな問題には思えないかもしれません。しかし女性の心をかき乱していたのは、もう一つの確執でした。それは親です。両親による「恩着せ」に強いストレスを感じ続けていました。特に、中学時代から母親と衝突ばかりしていたそうです。嫌だった塾(ピアノ・学習塾)へ行かされて勉強嫌いになり、登校拒否が続いたことも。女性は大学を出ていましたが、それも親が自らのメンツを保つために「行かされた」と感じていました。このことについて、両親はいつも「親の恩が分からんのか…」などと、ことあるごとに大声を上げて罵しったと女性は訴えました。 大学を卒業した後も、母親との溝が埋まることはありませんでした。就職先の職場の男性と恋愛結婚したのですが、嫁ぐ際に夫に対してまで「この娘は感謝も出来ない子なんです。こんな娘をなぜ嫁に貰ったんや…」とさげすむのような言葉を口にしました。 女性は母親が大嫌いでした。特に機嫌が悪くなると、いつ爆発するか分からない人で「地雷」を抱えているような人だから嫌いだと語りました。家を新築した時には、こんな不仲の母親から絶対に資金の応援はしてほしくなかったため全てを断ってきていたのでした。しかし、カ-ポートを作る資金を夫はもらってしまいました。 女性が幼少の頃から、母親はことあるごとに「ああしてやったのに…! こうしてやったのに…!」などと恩着せを言うため嫌で嫌で堪えられず、両親とは距離を置いてきました。それでも無理矢理、私の家庭にまで介入してくる…。今回、女性が東尋坊へ自殺を考えて来たことは絶対両親には内緒にしてほしいと言われたため、夫に迎えに来てもらいました。二人の話し合いの結果、夫は「祖父のこともあるので、あの家は手放す…!」と話し、二人で帰路につきました。 親の愛情は計り知れないものがあると思います。 しかし、その愛情が相手に伝わらない事に対する虚しさを感じた次第です。一般社会人になると上司などから「恩着せ」されることが多々あると思いますが「ただより高いものは無い!」と言われる所以がここにあり、親子の中にもある事を今回気付かされました。ちなみに女性は姉との2人姉妹で、姉もうつ病で苦しんでいるそうです。 × × × 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。 相談窓口の電話・FAX 0776-81-7835