溢れる破壊と殺戮 足りない日常生活品 --- 写真家・鈴木雄介氏が見たシリア
戦争を見つめて平和を知りたい
また、実際に戦闘の現場で命をかけている人間達がどのような人物なのか、なぜ命をかけて戦うのか、極限状態に置かれた人間はどんな本質を見せるのか、またその様な状況でいったい自分という人間はどのようになるのかを知りたかったという想いもありました。 小学校の頃からひたすら平和は大事だと、いわゆる平和教育というものを受けて育ちましたが、それはまるでテストで「こういう質問が出たらこう答えなさい」と形通りの答えを示すよう刷り込まれるような物で、平和というものを言葉でなんとなく理解はしているものの、よく考えた時にそれがいったい何であるのか全くわかりませんでしたし、大人達も決まり文句のように「平和は大事である。戦争はしてはいけない。」と繰り返すのみで現実感がありませんでした。 真に平和を考え求めるのならば、その対局にある戦争がどういった物なのかを知り、見つめることが大事だと考えました。その意味も知らず、言葉としてただ「平和、平和」と言っているだけでは真に平和が何かすらも知ることが出来ません。その想いと写真家としての目標が今回のシリア取材のきっかけです。
シリア滞在中に見た光景 届かない支援物資
インフラが壊滅しているので市民生活は本当に大変な状況に置かれていて、民衆は一日のうちかなりの時間を、食料を調達したり、薬を探したり、冬だったので暖をとる為の薪を集める為に廃墟になった家の家具を破壊する作業に費やさなければいけませんでした。 風呂は一週間に一度入れればラッキーで、街の80%を反政府軍が支配しているにもかかわらず、町の人はアサド政権派のスパイを恐れていて、路上でカメラを向けるとほぼ例外なく皆顔を隠すので、一般人を対象とした撮影は困難でした。 2年以上にも及ぶ戦いで市民の心は疲弊しきっていて、アサド政権を倒すための戦いよりも、とにかく今のこの酷い生活をどうにかしてくれと言う声を市民から多く聞きました。 多くの市民が、外国の援助団体が支援の約束をするものの私たちのもとには何も届いていないと言うのを見て落胆したのを覚えています。実際、自分がアレッポにいた間、外国からの援助の品とわかるような物資はほとんどありませんでした。 ただ、安全確実に物資をシリアの色々な街にトラック等の陸路を使って届けるのは現実問題としてとても難しいです。政府軍、反政府軍のチェックポイントがいくつもあり、ギャングの様な一団が物資を横取りしたり、一部の腐敗した反政府軍が横流しして私服を肥やしたりというケースもあります。 そういう内部の腐敗があることを市民や反政府軍兵士も知っていて、それらの問題を解決しなければアサド政権側には勝てないだろうという声も聞かれました。 一族の中でも反政府軍メンバーである若い息子は反アサドだが、長年政府系企業で働き高待遇を受けてきたおじはアサド政権のやることをこの状況になっても支持し続けているといったように、全員が反政府軍を支持しているという訳でもありません。 長引く戦いであまりにも死が生活の一部として密着していたことはショックでした。