『ライオンの隠れ家』“人”で繋がる3人の名前の美しさ 焚き火が象徴する終わりの予感
前回、愁人(佐藤大空)に危険が迫っていると直感した洸人(柳楽優弥)は、美路人(坂東龍汰)も連れて3人で、佐渡島にある貞本(岡崎体育)の親戚の別荘に新たな“隠れ家”を見出すこととなった。一方、彼らと入れ替わるようにして小森家を訪れた橘祥吾(向井理)は、たまたま落ちていたライオンのキーホルダーを見つけたことで、愁人がまだ生きていて、この家に匿われているということを確信する。 【写真】母としての愛が溢れ出ていた愛生(尾野真千子) 物語の佳境に向けて着々と動きだした『ライオンの隠れ家』(TBS系)は、11月29日に第8話が放送された。工藤(桜井ユキ)と面会した愛生(尾野真千子)は仮釈放となり、高田(柿澤勇人)の協力もあって祥吾と顔を合わせないまま柚留木(岡山天音)と合流。その足で佐渡島へと向かい、ついに愁人と再会、洸人と美路人とも久々の対面を果たすこととなる。束の間の家族4人での生活も、長くは続かない。もう一度協力すると申し出た柚留木の指示に従い、愛生は新たな戸籍を得て洸人たちの元から離れることを決断するのだ。 ようやく愛生の口から直接“偽装死”という非常に危険な方法を思い立つに至ったきっかけなど、これまでの一連の経緯を聞かされる洸人。あの日、愛生が突然家を出て行ってから、両親の死後に取り乱す美路人のために多くのことを諦めて家に戻り、平穏な生活をがんばって築き上げてきたこと、そしてそれが思いも寄らないかたちで乱されたことなどをひとつひとつ言葉にしてぶつけていく。洸人がここまで自分の心のうちに溜め込んでいたものをさらけ出すのは、おそらくこれが初めてではないだろうか。 4人で過ごす最後の夜に、ふたりへの感謝を告げる愛生に対し洸人は、愁人=ライオンがきたことで「景色が広くなった」と語り、それまで美路人と平穏に暮らすこと以外自分に選択肢がなかったことを改めて自覚する(第3話の動物園で、これまで美路人の可能性を自分が狭めていたのかもしれないと省みるシーンと通じるものがある)。そして同時に、4人の前で燃え盛る焚き火はこの関係にいつか必ず終わりが来るということを予感させるものだ。火が小さくなって消えかけるまで、ひとりで焚き火の傍に残りつづける洸人の姿が、それを象徴しているといえよう。 今回のエピソードで改めて言及されるまでは、特に意識もしていなかったことではあるが、洸人と美路人とおなじ“人”という文字が愁人の名前には入っており、それは洸人たちの母親(坂井真紀)から受け継いできた小森家の名付けの伝統のようなものだとわかる。「人と人の縁や絆に恵まれますように」と願いがかけられたその名付け。“愁”は響きや字の形は美しいが、込められている意味はどちらかというと内向的なもの。対して、“洸”は水が豊かに広がっていることを表し、“美路”はその字の通り美しい路といったところか。不安を抱える愁人に美路人が手を差し伸べて道をつくり、大きく包み込む洸人のもとへとつながる。3人の名前の連なりからは、そうした物語が見えてくる。 さて、愁人を連れて佐渡島を去ろうとする愛生は、洸人に対して「想像しているよりもずっと、夫(祥吾)は危険な人なのかもしれない」と伝える。その言葉通りなのか、工藤は天音(尾崎匠海)が取材で見つけ出した亀ヶ谷議員(岩谷健司)とたちばな都市建設の“裏のつながり”へとたどり着くことになる。リニア建設にかかわる何人もが失踪し、調べていた元秘書は遺体となって発見されている。一見関係のない事柄だと思っていた、工藤たちが追っていた“7股スキャンダル”の議員が、このようなかたちで物語の本筋に入り込んでくるとは。
久保田和馬