「戦時の思考に」 NATO事務総長、加盟国に国防費大幅増を要請
北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は12日、ブリュッセルで講演し、加盟国の現状の防衛支出水準ではロシア、中国の中長期的な軍事力増強に対応できなくなるとして、国内総生産(GDP)比3%を念頭に大幅な国防費の増加を要請した。 【写真まとめ】「戦争に備えよ」 スウェーデン政府が備蓄促すパンフレット配布 NATOによると、32加盟国中、2024年中に現行目標のGDP比2%に達するのは23カ国とみられている。NATO防衛支出の6割以上を負担する米国のトランプ次期大統領は、国防費がGDP比2%を下回る国は「守らない」と発言。米国以外の加盟国の費用負担が十分でない場合、米国のNATO脱退を検討する意向を示している。またトランプ氏はロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援の削減も示唆しており、米国以外のNATO加盟国の負担増加は避けられない状況だ。 ルッテ氏は演説で、ロシアが軍事支出の拡大とイラン、北朝鮮との協力などでウクライナやNATOとの長期的な対立に備えていると分析。また中国が「核兵器を含めた軍事力を不透明な形で無制限に増強している」とし、「現在は(ロシアや中国に対するNATOの)抑止力が効いているが、4~5年先への備えはできていない。危機が全速力で近づいている」との現状認識を示した。 ルッテ氏はその上で、「米ソ冷戦時代に欧州各国がGDP比3%をはるかに上回る国防費を投入したことが冷戦での勝利につながった」と指摘。これを念頭に「私たちは戦時の思考に切り替えなければならない。GDPの2%を大幅に上回る国防費が必要だ」と強調した。 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は12日、複数のNATO加盟国関係者の話として、25年6月の次回NATO首脳会議に向け、短期的にGDP比2・5%、30年までに3%の国防費目標を設定する議論が加盟国間で続いていると伝えた。ルッテ氏はFTに、「具体的な目標の数字はあるが、今は言及しない」と述べている。 NATO加盟国の国防費は、ウクライナやロシアに隣接するポーランドやエストニア、ラトビアでGDP比3%を超えるのに対し、地理的にも遠いイタリアやスペインなどで2%に達しないなど隔たりがある。ルッテ氏は「強い防衛力がなければ安全保障を持続することは不可能で、子供たちや孫の世代の自由もなくなる」と訴えた。 またルッテ氏は加盟国の兵器の仕様が統一されておらず、共同行動の際に訓練や消耗品の調達が非効率になる点や、銀行が防衛産業への投資を敬遠する問題などを列挙し、改善を求めた。【ブリュッセル宮川裕章】