故障復帰した34歳の今野がハリルJに不可欠な理由とは
帰国後に受けた精密検査の結果、痛みを覚えていた患部の骨折が判明する。代替招集されたMF遠藤航(浦和レッズ)とバトンタッチし、魂を置いて代表を離れていった背中に誰もが勇気をもらった。たとえばMF香川真司(ボルシア・ドルトムント)は、今野についてこう語る。 「あのポジションから攻守において前に出ていけるのは、このチームのストロングポイントになった。そう思える試合だったし、僕らが前に出ていく回数を増やしていけば、より相手の脅威になると思う」 長谷部の離脱に伴い、中盤の陣形も変更された。それまでのダブルボランチから山口蛍(セレッソ大阪)をアンカーに置き、前方に2人のインサイドハーフ、香川と今野を左右対で並べた。依然として長谷部を欠くイラク戦も、この3人による逆三角形型がファーストチョイスとなる。 もっとも、今野のコンディションが未知数だったためか。ハリルホジッチ監督はインサイドハーフ候補としてガンバのチームメイト、倉田秋と井手口陽介も招集。サプライズ選出したボランチの加藤恒平(PFCベロエ・スタラ・ザゴラ)の適性も試す考えも明かすなど、陣容に厚みをもたせている。 「本当に刺激のある場所だけど、ただ生半可な気持ちで来ちゃいけない。そういうピリピリした雰囲気というか、相当の覚悟をもってやらなきゃいけない場所だとあらためて感じました」 3月の離脱時に、今野は代表に対する神聖なる思いを再確認していた。だからこそ、仮想イラクとなる7日のシリア代表との国際親善試合(東京スタジアム)で満足のいくパフォーマンスを演じられなければ、イラク戦の先発はもちろん、最悪の場合はベンチ入りする23人から外れてもいい覚悟を決めている。 「とにかく自分のよさを出さなければいけない。球際の攻防で負けないとか、チームにために走るとか。そういうところを出せなかったら、自分じゃないと思っているので。与えられたトレーニングをしっかり続けて、試合に出たらもう体が動くままに、本能のままにプレーしたい」 過去に2度、ワールドカップに出場している。2010年の南アフリカ大会はチームをなごませ、鼓舞するキャラクターに徹した。2014年のブラジル大会ではセンターバックとしての自分に限界を感じながらも必死に戦い、グループリーグ敗退に号泣した。 「これだけ試合から離れているにもかかわらず、僕を呼んでくれた。光栄なことだと思うし、呼ばれたからには責任感をもってやらないと。やっぱり重みのある場所だし、だからこそ来たら来たで緊張しますね」 自分が最も輝くと自負する中盤の一員として、3度目の夢舞台に立つために。完全復活とハリルジャパンへの生き残りをかけた今野の戦いが、静かに幕を開けた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)