横一列に並ぶ六地蔵、放火があったらしき半壊した廃屋…『SIREN』「羽生蛇村」のモデルになった埼玉県の廃村でソロキャンプしてみた
雨音に混じり、足音や何かを引きずっているような音が…
集落には森の中へ続く小さな道が複数あったが、山中の別集落に続いている道かもしれない。しかし行き止まりになっていたり道が崩れそうだったりして、進むことはできなかった。 地面には所々に茶碗や皿が落ちていた。陶器は腐ることはないので、当時の姿のまま残されている。時が止まっているようで不思議な感覚になる。 集落の中を探索し終えたところでテントへと帰ってきた。中に入って人心地つく……とはいかず……。神経が尖ったままなので、体に触れるビニール袋にすら怯えてしまう。思った以上に打ち付ける雨音がうるさい。 ここで眠れるのだろうか……。体を横たえ目を瞑るが、そうすると全ての神経を聞こえてくる音や気配に集中させてしまう。雨音に混じり、足音や何かを引きずっているような音が聞こえてくる。 そんなはずはない。きっと雨音がそう聞こえるだけなのだろう。しかし僕の頭の中では、テントの外で霊体となった集落の人々が今も生活を続けている光景が鮮明に広がっていた。
「また来ます…嘘です」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。恐怖で寝付くことはできず、気が狂いそうになっていた。どうしてこんな場所に泊まろうと考えてしまったのだろう。何度も深く後悔し、無邪気にキャンプを勧めてきた監督を恨んだ。諦めて下山しようかと本気で考えたが、ノイズキャンセリングのイヤフォンがあることを思い出し、音が極力聞こえないようにして再び横になった。 ボトボトボトボトボトボト ボトボトボトボトボトボト ボトボトボトボトボトボト テントに打ち付ける雨音はイヤフォン越しでも聞こえてくる。微かな振動を体でも感じる。永遠とも思える水滴の連打が、恐怖心を刺激する。僕は全神経をイヤフォンで流していた「波の音」に集中させた。 ……いつの間にか眠っていて、起きたときには朝の10時になっていた。 雨は上がり、テントの外の濡れそぼった廃村は、朝陽を反射して厳かな雰囲気を漂わせている。深夜の雰囲気とはまるで違った姿だ。 僕は慣れない手つきでテントを撤収し、六地蔵に頭を下げて集落をあとにする。 「また来ます…………嘘です」 心霊スポットでテント泊はダメかもしれない。心はすでに折れていた。のん気に構えていたが、初っ端から企画が危うくなっていた。 ◆◆◆ ※他人の所有物件に許可なく立ち入ることは違法です。決して立ち入らないでください。
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