5年前に焼け落ちた城…回復する訪問客、カギは工事の進め方にあった 琉球の文化と平和を伝える場に、2026年の完成目指し首里城再建へ
「あの日、焼け落ちていく城を見ていることしかできなかった」。那覇市消防局の上原正彦(うえはら・まさひこ)警防課長は、5年前の10月31日に経験した強い喪失感を今も覚えている。その日の未明、首里城で火災が起き、上原さんは消火現場の指揮に当たった。しかし「延焼を食い止めることはできなかった」。城は正殿など7棟が全焼した。 いま、その現場では再建工事が進んでいる。特徴は「見せる復興」だ。修復過程を一般の人にも見てもらえるようにしたことで、火災後に激減した訪問客は回復しつつある。 【写真】遺体に覆い尽くされた道を「踏みながら逃げた」 6歳の少年が生き抜いた沖縄戦の苛烈 たどって実感「故郷は戦場だった」
そしてこの城の地下には、太平洋戦争末期に旧日本軍によって築かれた、第32軍司令部の壕(ごう)が眠る。将来的にはここも公開される予定だ。地上の城と地下の戦争跡―。琉球の文化や伝統に加え、平和の尊さも伝える場所になってほしいとの期待を受け、再建は進む。(共同通信=永井なずな、上野すだち) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽スプリンクラーがない…二度と起こさないために 首里城は2019年10月31日午前2時半ごろ出火し、正殿を含む7棟が全焼した。沖縄県警と那覇市消防局は出火原因を特定できなかった。内閣府沖縄総合事務局などによると、建物と収容物の損害額は約84億4千万円に上る。 火災時、施設にはスプリンクラーがなく、鎮火まで約11時間かかった。このため、再建に当たっては防火態勢の強化も大きな柱となった。再建後の建物では炎感知器やスプリンクラーが新設されるほか、防犯カメラの監視体制も強化される予定だ。
火災から5年となった今年10月31日には、那覇市消防局や沖縄県、城を所有する国などが合同で、再建が進む正殿で大規模な消火訓練を実施した。 訓練の想定はこうだ。「工事中の正殿を風雨から守る仮設の建物『素屋根(すやね)』で夜間に出火した」。煙感知器の警報が作動すると、警備員が声をかけ合って初期消火の手順を確認し、到着した消防隊に状況を伝えた。消防隊が素屋根に向けて一斉に放水し、地面に設置したホースから噴射した水で「壁」を作る「水幕防御システム」も作動させて延焼を防いだ。 訓練終了後、那覇市消防局の上原さんは「工事と歩調を合わせ、もう二度と火災で失われることがないように防火態勢をしっかり整えたい」と力を込めた。 ▽琉球の竜の指は何本? 再建工事は2022年に始まった。今年5月には、屋根や軒回りの工事を無事に終えたことを祝う「工匠式」が執り行われ、伝統装束に身を包んだ宮大工たちが建物の安泰を祈念した。