「誰のものか」突き詰め700万部 今は定番、実は革新的 絵本「いないいないばあ」
「赤ちゃんが不安を感じず、程よくシチュエーションが変わる」と明和教授。これは他のロングセラー絵本にも通じそうだ。そういえば「おおきなかぶ」(福音館書店)や「だるまさん」シリーズ(ブロンズ新社)も同じ構造だと膝を打った。 また、絵本ならではの特徴として、膝に抱いて読むなど身体接触を伴うので、親子双方にとって心地よい体験になるという。 ▽赤ちゃんの文学 改めて赤ちゃんの反応を確かめたくなり、埼玉県三芳町の町立中央図書館の読み聞かせ会をのぞかせてもらった。 「いないいないー」。司書が投げ掛ける言葉に応じ、男の子が「ばあ!」と大きな声で立ち上がる。他の赤ちゃんたちも絵本の動物たちにくぎ付けだ。手足をバタバタさせて喜んでいる。1歳の次男を連れて参加した4児の母親は、上の3人の子どもたちにも「いないいないばあ」を読み聞かせてきたという。「最初は本をめくったり、かんだりするだけだった子が、『ばあ』と言うようになると成長を感じます」とうれしそうに話してくれた。
「いつの時代でも子どもたちの反応は変わりません」。そう話すのは「絵本の本」などの著作があり、保育士としても長年、この絵本を読み聞かせてきた中村柾子さんだ。「大人に目が向けられているのではなく、誰が読むかということにきちんと向き合ってできた本です」 文章を担当した松谷さんは「赤ちゃんの文学」があると確信していた。後日、冊子で絵本制作の苦労を打ち明けつつ、こう記している。「赤ちゃんと同じリズムを呼吸し、生きる感動を共感するところから赤ちゃんの文学は生まれるのではないだろうか」 このようなつくり手の思いは、きちんと読み手に届いているのか。 子ども向けの本と大人の本の違いは、読み手(子ども)と買い手(大人)が別であることだ。これまで子どもに本を買ってあげる際、自分はどんな基準で本を選んでいただろうか。取材を進める中で振り返ってみた。話題の本や、教育によさそうな本、家に置いておしゃれな本―。どうやら“大人の視点”が入り込んでいたのでは…と反省した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、絵本や児童書の売り上げが増えているという。入園入学シーズンも控え、子どもに本をプレゼントする機会も多くなるはずだ。その時は、ぜひ一度考えてみてほしい。その本を読むのは誰ですか、と。