日本が「1人あたり付加価値」を上げるために欠かせない事、国も企業も国民も長期的問題を考えねばならない
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第69回。 【ランキング】金持ち企業トップ500社 ■貿易収支の赤字基調は構造問題 2021年8月以来、日本は貿易収支の赤字が続いている。2021年11月、2022年1月には、経常収支も赤字になった。経常収支は2022年2月には黒字化したが、今後再び赤字になる可能性がある。 今回の貿易収支赤字拡大は、原油価格の高騰という短期的な要因によるところが大きい。
ただし、日本の貿易収支が長期的、構造的に悪化傾向にあることも事実だ。 赤字が継続するとの予想があれば、円安が加速される。それが輸入物価を引き上げて、さらに赤字を拡大するという悪循環に陥る危険がある。 そうした過程を阻止する必要がある。 これは、短期的施策では対処できない、構造的問題だ。 このところ、コロナ、インフレ、ウクライナ問題、円安などに振り回される毎日だ。毎日あまりにたくさんの大きな出来事があるので、長期的問題を忘れてしまう。
しかし、こうしたときにこそ、毎日のニュースに翻弄されるのでなく、国も企業も国民も、長期的な問題を考える必要がある。 日本にとって最重要の長期的経済課題は、高い付加価値を産む企業を作り、それによって持続的な経済成長を維持することだ。就業者1人当たりの付加価値を生産性というので、これは「生産性の向上」と言ってもよい。 そして、そのような未来に向かって、日本の可能性を高めていくための構図を描くことだ。
日本は、これから先2040年頃までは、高齢化が進展する。 それに対応するために女性や高齢者の活用が大変重要な課題だ。 これができなければ、生産性はさらに低下してしまう。 ただし、そのためには、さまざまの社会的制度が整備されていなければならない。 日本の賃金は、長期にわたって停滞している。 これを放置すれば、日本の賃金が国際水準からみて低くなり、人材の獲得が難しくなる。あるいは、日本の人材が海外に流出してしまう。そして生産性がさらに低下する。