高校サッカー連覇へ王手をかけた青森山田のスーパー1年・松木玖生は先輩を叱る大物「もっとやらなきゃダメだろう!」
慌ててボレーを放つのではなく、コンマ数秒だけ遅らせてハーフバウンドさせ、ボールがはね上がった直後に左足を合わせた。低く、速い弾道のシュートを放てる最善の選択を下し、チーム最多となる大会4点目を決めた直後に、松木は満面の笑顔を浮かべながら両手で英語の『T』を作っている。 古宿の同級生で、松木自身もよく面倒を見てもらっている先輩から頼まれていたパフォーマンスだった。詳細を聞けば「その先輩のあだ名が『Toy』なので」と屈託なく笑う。両手であだ名の頭文字を作り、大会得点ランキングで首位に1差と迫る貴重な追加点を捧げていたわけだ。 北海道コンサドーレ札幌のキャプテン、宮澤裕樹をはじめとするプロ選手を輩出した北海道の室蘭大沢FCで心技体を磨いていた小学校6年生のときに、全国大会を制した青森山田中学に魅せられた。中高一貫で進む高校の先にプロという夢を描きながら、中学進学とともに親元を離れる決断を下した。 室蘭大沢FC時代は素質を高く評価され、年齢が上のカテゴリーでプレーする機会も多かった。ゆえに本来のカテゴリーに戻ったときに、松木をして「自分が引っ張っていかなきゃダメだ」と振り返らせるリーダーシップが自然と芽生え、強靱なメンタルを生み出す源泉となった。 青森山田中の3年時にキャプテンを務めたことで責任感も芽生えた。自信をも深めたいまでは、高校卒業後にプロになる夢はそのままで、思い描くステージをはるかにグレードアップさせている。 「声がかかれば、ですけど、早めに海外へ行ってチャレンジしたい。自分はプレミアリーグが、そのなかでもマンチェスター・シティが一番好きなんです。試合もずっと見ていますけど、Jリーグと比べてスピード感がまったく違うし、そういう部分を経験したい、というのもあります」
青森山田高への進学が決まった2018年夏からさっそく高校の練習に参加し、将来を見すえて筋力トレーニングも率先して自らに課してきた。身体を大きく、強くするために寮で出される食事以外にも自炊でカロリーを補給した結果、昨夏までに5キロほど体重が増えたという。まだ成長を続ける身体のサイズは、身長177cm体重71kgになっている。 「自炊は基本的には肉類とサラダを買って、常にご飯を3杯は食べて、という感じです。一時は筋トレをしすぎて、身体が動かないような状態になったんですけど、この冬にかけて増量して、なおかつアジリティー面でも動ける身体になってきたと思っています」 無尽蔵のスタミナを駆使して自陣と敵陣のペナルティーエリアを何度も往復する、いわゆるボックス・トゥ・ボックスの動きで青森山田を縁の下で支えていた後半38分に、まさかの事態に見舞われた。ファウルを受けた刹那に足がつってピッチに倒れ、2分後には交代を告げられた。 「チームがすごく苦しい状況で、足をつらせたことで自分が欠けてしまう悔しさや、チームへ迷惑をかけている自分へのふがいなさもあって」 後半32分に1点を返された青森山田は、帝京長岡の猛攻にさらされていた。ベンチへ戻った直後から、松木は自責の念から人目をはばからずに号泣した。すぐに気を取り直し、ベンチの前に立って身振り手振りで声援を飛ばす頼もしい姿に、黒田監督が再び目を細める。 「1年生でこれだけのことができる。来年、再来年もさらなる期待をしたい」 新チームへ移行する前に、最後の戦いが待つ。静岡県勢として12年ぶりとなる決勝進出を決めた、静岡学園との大一番が13日午後2時5分に、準決勝と同じ埼玉スタジアムでキックオフを迎える。 「決勝戦で相手を圧倒して勝つ、という試合を思い描いていた。自分を主役として考えているので、3点くらいバンバン取ってチームを勝たせるみたいな。でも、実際には得点王などは気にせず、一番はチームに貢献するプレーを心がけながら、日本一という最高の景色を見てみたい」 スタンドから見た昨年の光景の一部に自らが入り、再び歓喜の雄叫びを響かせたとき――2000年度と2001年度大会を制した国見(長崎)以来となる連覇達成とともに、まだまだ伸びしろがあり、年代別の日本代表にも選出されている松木を中心とした青森山田の黄金時代が幕を開けるかもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)