中村アン&横山裕、実力派俳優2人の「競演」で紡がれる関係性の変化に注目!ドラマ「約束 ~16年目の真実~」
モデルとしてデビュー後、雑誌だけでなくTV番組やCMなどで活躍し、現在は俳優として確固たる地位を確立している中村アン。多様に役として作品内を生きる役者ぶりは業界でも高い評価を受けており、2024年だけでも主演作が2本続く活躍ぶりだ。 【写真を見る】真っ直ぐで正義感の強い刑事を演じた中村アン 一方、グループが今年2月に改名し、新たなスタートを切った「SUPER EIGHT」の横山裕。トランペットやパーカッション、ギターを扱う音楽的な才能に加え、バラエティ番組でのコメント力や盛り上げ力などを有しながら、役者としても活躍するグループの中心メンバーの1人だ。演技においては、ヒロインの兄役で高い評価を得たNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」(2022~2023年)で、繊細な演技や対応力の高さ、演技に向き合う姿勢などに共演者やスタッフから称賛の声が続々と上がったほど。 そんな2人が初共演を果たした作品がドラマ「約束 ~16年目の真実~」(2024年、日本テレビ系)だ。主演の中村が真っ直ぐで正義感の強い刑事・桐生葵を演じ、共演の横山が葵のバディで、論理的に物事を組み立てる頭のきれる香坂慧を好演した。 同ドラマは、かつて連続殺人事件によってすべてを奪われた女性刑事が故郷に戻り、事件の真相を追う完全オリジナルの心理サスペンス。将来を嘱望されていた刑事・葵は、長年の希望が叶い、東京郊外にある望野町の警察署に着任する。葵のバディとなった同署の刑事・香坂は、なぜ優秀な刑事である彼女が平和でのどかな望野町に来たのかと不審に思い、彼女の目的を探り始める。そして、望野町は葵の故郷であり、16年前に2件の連続殺人事件が起こっており、その犯人として葵の父が逮捕され、留置所内で病死していたことがわかる。物的証拠と自白から事件は解決していたが、父の無実を信じる葵は、事件の真相を探るために望野町に戻ってきたのだった。そんな中、望野町で16年前の事件に似た新たな殺人事件が起こる...。 葵の人生を狂わせた16年前の事件の真相、何が真実で何が嘘かが分からない予測不能の展開、登場人物全てが容疑者候補など、謎が謎を呼ぶ"考察"要素がふんだんに盛り込まれたストーリーが魅力の作品なのだが、そんな中で"葵と香坂は互いに似たところが多分にあるキャラクター"というところが他の作品とは一線を画した面白い特徴となっている。 葵は愚直に事件と向き合い、星を挙げてきた一匹狼的な存在で、行動第一の感覚的に頭のきれるタイプ。対する香坂は、論理的な思考を基にした頭のきれるタイプで、常に先読みし、ベストな選択肢を提示し続けるキャラクターで、望野署に異動する前までは警視庁本部に勤務していたエリート。"感覚的"と"論理的"という違いはあるが、共にクールで頭がきれ、互いを信用しておらず自分しか信用していないところ、過去に大きなものを抱えているところなど、多くの要素が類似している。 バディ物といえば、クールとパッション、理性と感性、秀才と天才、規律的と恣意的など相対するキャラクター設定が多用されるものだが、あえて似たところの多い2人がぶつかり合うというのが新しい。過去の事件のこととなると猪突猛進に突っ走ってしまう葵と、葵を暴走させないように監視し続ける香坂。互いに頭のきれる2人が、思考を読み合っているシーンなどは、セリフがないにもかかわらずバチバチとしたやり合いが繰り広げられて目が離せない。例えば、斜向かいに座って互いの存在を意識しつつも、それを悟られないようにし合うシーンでは、あくまで気にしていない素振りを見せつつ、目線の動きだけで心の動きを表現するなど、中村、横山共に高度な演技の応酬で細やかな感情を表現している。共にクールで頭のきれる葵と香坂を、中村と横山がどういう違いをもたせながら演じているかにも注目すると、より同ドラマを楽しめるだろう。 そして何より面白いのが、前半で16年前の事件を追う葵を香坂がけん制するという関係性が、香坂が5年前に望野署に異動するきっかけとなった事件との関連が描かれ始める後半では反転するところだ。まるで写し鏡のように立ち位置や行動性が逆転し、それを経たことでクライマックスに向かって2人の距離感や信頼度が変化していく。この流れにおける、2人の芝居の変わりようにも目が離せない。深まっていく謎によりクレバーさを増していく葵と、冷静さを欠いて人間らしさが顔を出し始める香坂。「葵が追う連続殺人事件の真実」と「香坂が抱える過去」の2つが繋がっていく中で、互いが抱いていた不信感は信頼へと変容していくのだ。このセリフでは描かれない変化にこそ、実力派の役者としての2人の底力が感じられる。 ラストまで誰が犯人なのか分からないハラハラドキドキの展開を楽しみつつ、実力派俳優2人の"競演"によって紡がれる関係性の変化にも注目していただきたい。 文=原田健
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